村上龍失われた10年を問う

NHKスペシャル

村上龍 / NHK出版 / 00/05/30

★★★★

予想以上に面白い試み

 村上龍が主催しているメール・マガジンJMM(Japan Mail Media)をベースに作られたNHKスペシャルの単行本化。JMMの内容はムックとして何巻か出ているようだ。

 村上龍という人は、コンテンポラリーな小説家として非常に優れている人だと思うし、特に初期の数作は夢中になって読んだものだが、エッセイストとしては最悪で、高村薫とともに、作家としての力量は本人の地の見識とはまったく別物であるという命題の実例の1つであると思ってきた。だから、彼が最近、経済・社会がらみの発言をしていることは知っていたが、慎重に避けてきたのだった。

 しかしこの本は悪くない。本書は2つの部分から成っていて、第1部は対談集である。相手となっているのは、西村吉正(大蔵官僚出身の学者。『金融行政の敗因』は、レビューを書くのを忘れているが、読んだはず)、ピーター・タスカ(エコノミスト)、吉川洋(マクロ経済学者)、森永卓郎(『バブルとデフレ』『〈非婚〉のすすめ』『リストラと能力主義』)、小倉昌男(ヤマト運輸)、カルロス・ゴーン(日産自動車)。第2部は、著者が出した5つの質問に対する多数の人のメールによる回答を集めたもの。

 対談は経済雑誌によく出ていそうな内容だが、素人の立場に立つ村上龍が相手の発言をうまく引きだしているという印象がある。『経済ってそういうことだったのか会議』の八百長的な展開と比べると、よっぽどスリリングというものだ。

 メールによる回答集は、電子掲示板の世界では当たり前の形式だが、活字の世界では珍しい試みだろう。有名人だけでなく、メール・マガジンの一般読者からの回答も一緒に掲載されていて、多様な角度からの意見を読むことができる。で、その質問の内容というと: 1) バブル発生前夜、邦銀は潤沢な資金を何に投資すればよかったのか。2) 戦後の日本経済の転換点はいつか。また、そのときには何が終わったのか。3) 高度成長後に日本が認識したさまざまな問題のうち、未解決のまま残っている典型的な例を挙げよ。4) 外国人に日本人がウサギ小屋に住んでいるのはなぜかと問われたらどう答えるか。5) 「昔は良かった」という言い方のアンチテーゼとして、生まれ変わるとした江戸時代、明治・大正、戦前、戦争中、戦後復興期、高度成長期、現代のどれがいいか。

 著者が本書で言いたいことは、主に次の2つだと思われる。1) 日本の戦後経済の転換期は、高度成長の終了にあった。バブルの発生と崩壊、およびその後の景気後退は、転換後のプロセスの中に位置づけられる。2) いまは高度成長前の時代と比べるとはるかに良い時代である。前向きに生きようではないか。

 著者には、現在を高度成長後に日本が抱えた諸問題を解決するための出発地点として捉えるという楽観的かつ前向きな態度を人々に浸透させようという意図があるようだ。若者への迎合の1パターンと思う人も少なくないかもしれないが、私はこの楽観主義を素直に支持したい気持ちになった。バブル期の糸井重里を思い出させるという面倒な印象もあるのだが。

2000/6/9

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