権力の失墜

大統領たちの危機管理

Shadow: Five Presidents and the Legacy of Watergate

ボブ・ウッドワード / 日本経済新聞社 / 00/06/02

★★★★★

緻密な取材と圧倒的な記述

 ボブ・ウッドワード(『大統領執務室』)の最新作。相変わらず緻密な取材に裏打ちされた、読みやすく面白い本である。

 本書は、ニクソンのウォーターゲート事件がアメリカ大統領のあり方を決定的に変えたという問題意識のもとに、フォード以来の5人の大統領(フォード、カーター、レーガン、ブッシュ、クリントン)が、スキャンダルにどのように対処してきたかを描いた本である。どのように変わったかというと、(1) 大統領は不可侵な存在ではなくなったので、スキャンダルに関するメディア対策を行わざるをえなくなった、そして(4) 独立検察官という制度ができた、ということだ。

 日本語版の上巻では、最初の4人の大統領が取り上げられており、下巻はクリントンだけに割かれている。下巻だけでも、クリントンのホワイトウォーター・スキャンダルからモニカ・ルインスキー事件までの進展を細かく追った貴重なノンフィクションなのだが、その前の4人の大統領を扱った上巻も、記憶をリフレッシュさせてくれる面白い読み物だった。

 フォードについては、ニクソンに対する恩赦の政治的なダメージを理解できなかったこと。カーターについては、クリーンなホワイトハウスという公約を強調したあまり、周囲から浮き上がってしまったこと。レーガンについては、イラン=コントラ事件への対応。ブッシュについては、イラン=コントラ事件の残り火が与えたダメージ。

 クリントンについては、ホワイトウォーター・スキャンダルから弾劾までのタイムスパンで、まだ記憶に新しい数々の登場人物たちが、個々のタイミングでどのように動いたかを丹念に追っている。私はこの一連の事件には多大な興味を抱き、1日に下手したら6、7時間ほどTVの前に座っていたので、あの頃の事態の進展の背後事情を楽しく読むことができた。本書のような本が書かれること、そもそもTVの前に釘づけになる私のような人間が現れること自体が、アメリカの政治をスキャンダルという観点から見るという新しい傾向の表れなのだが、下手なポリティカル・スリラーよりもはるかに面白いのだから仕方がない。

 著者のボブ・ウッドワードには毀誉褒貶がある。彼はスキャンダルの進行中もTV番組に頻繁に出演し、もっぱらクリントンを攻撃する立場に立っていた。そのため、本書にはバイアスがかかっていると見る人も多いようだ。ちなみにウッドワード本人はどちらかといえば民主党寄りだが、反権力指向の色の方が圧倒的に強い。それとは別に、彼の著作の記述のあまりの細かさと、まるでその場に本人がいたかのように場面を再現するスタイルに不信感を抱く人もいるようだ。これはしかし、日本のどうしようもないノンフィクションにうんざりしている私に言わせれば、「典拠をちゃんと示している方」であるし、このスタイルが本を安っぽくせずにリーダビリティを高めているのは明らかである。

 一連のスキャンダルの描写そのものについて。かなり大々的な攻撃を受けていたケネス・スター独立検察官を、中立的に描くことによって、結果的には彼に対する支持を表明していることになっているという印象を受けた。一方、クリントンの側についても、彼の立場にぎりぎりまで歩み寄って、「単なる過ち」という考え方に立っている。ヒラリー・クリントンについては、ホワイトウォーター疑惑も含めて、善意の被害者という立場である。これら主要人物の行動については、対立する立場の人々がいろいろな臆測を行い、何かしら悪どい思惑があったのではないかとする見方が強かったように思うが、おそらくウッドワードは主要人物たちの側近たちを取材した結果、実態は見掛けほど悪くないという結論に達したのだと思われる。教訓は、いざというときにいいことを言ってくれる側近を持っておくのが良い、ということか。とりわけヒラリーには献身的な友人が多くいるようだ。

2000/6/18

TRCの該当ページへ

TRCの該当ページへ

amazon.comの該当ページへ

検索ページへ 目次へ 前へ 次へ