稲作の起源を探る

藤原宏志 / 岩波書店 / 98/04/20

★★★★

分析手法から実地での応用例までをカバーする優れた啓蒙書

 著者は農学者。過去に育てられていた農作物を発見・分析するための手法であるプラント・オパール法なるものを開発し、これを使って稲作の起源を調べている。この本は、この手法の解説から始まり、縄文時代の農耕の調査や、世界最古と考えられている長江のデルタ地帯の水田址の調査での適用例を紹介している。

 イネ科の植物の葉には機動細胞珪酸体と呼ばれるものがあり、植物が枯死すると、これが粒径50ミクロンほどの小さい微化石となって土壌に埋まる。「このような植物に由来する土粒子のことを土壌学でプラント・オパールと呼ぶのである」、とのこと。これが面白いのは、土壌に含まれているプラント・オパールから種が判別できるだけでなく、定量的な分析によって、その土の上で育った(葉が動かされなかったという前提が必要だが)植物の総量が推定できるということで、たとえば水田址が見つかった場合、プラント・オパール法によって、その水田がどれぐらいの期間にわたって稼働していたかがわかる。

 著者はこの手法をもとに、弥生時代と縄文時代の農耕を調査し、また稲作の発祥地と考えられている中国の長江デルタ地帯にも出かけていって、いまのところ最古の水田址を見つけている。それとはまったく別に、日本における焼畑農法の調査も行っていて、ここの部分の記述も非常に興味深い。伝統的な焼畑を継続的に行っている宮崎県の椎葉に出向いて、焼畑の実際の手順を記録しているのである。

 カバーには「農学者としての熱い思いが伝わってくる」という紹介文があるけれども、まさにそのとおり。読んでいて楽しい本だった。また、この路線の研究は、今後も弥生観と縄文観に大きなインパクトを与えそうである。

1998/5/16

TRCの該当ページへ

検索ページへ 目次へ 前へ 次へ