弁護士から裁判官へ

最高裁判事の生活と意見

大野正男 / 岩波書店 / 00/06/22

★★★★★

元最高裁判事のきわめて興味深い本

 砂川事件、「悪徳の栄え」事件、外務省秘密漏洩事件などの憲法裁判に関わってきた進歩派弁護士が、最高裁判事として活動した時期を振り返って書いた本。この読書メモでは、裁判官が書いた本として『愉快な裁判官』『裁判官は訴える!』を取り上げているが、本書の著者はキャリア裁判官ではなく、そしてもちろんのこと最高裁判事だったという際だった特徴を持っている。最高裁判事の仕事と生活を細かく記した前半部と、著者が担当した重大な事件の個別意見と主任事件判決を紹介する後半部から成る。随所随所でアメリカの連邦最高裁の事情と比較する記述があり、アメリカ製リーガル・サスペンスの愛読者にとって貴重な参考文献になりそうだ。

 「ミイラ捕りがミイラになった」と言っては失礼になるんだろうが、全般的に見て、著者は「最高裁はまあまあよくやっている」という結論に達したようだ。インサイダーにしかわからない細かい事情が書かれていて興味深い(憲法判断があまり下されなくなった理由の1つとして、裁判官同士の遠慮から、負担のかかる大法廷に回すのをなるべく避けようとする傾向が挙げられていたりする)。

 なお、最高裁判事が書いた本として、以下の参考文献が挙げられている。松田二郎『私の少数意見』、団藤重光『実践の法理と法理の実践』、谷口正孝『裁判について考える』、伊藤正己『裁判官と学者の間』、藤林益三『私の履歴書』、矢口洪一『最高裁判所とともに』、レーンクィスト『アメリカ合衆国連邦最高裁』、ジャクソン『アメリカの最高裁判所』。

 個人的には、著者の考えとは反対に、任期制と政治的任命を導入しないとどうしようもないという感想が強化された一方で、こういう形での「司法の安定性」も悪くはないんだなあという気持ちも強まったというアンビバレントな読後感。いずれにせよ、著者のおそろしく真面目な態度が印象的な感動的な本であった。

2000/7/8

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