下着の誕生

ヴィクトリア朝の社会史

戸矢理衣奈 / 講談社 / 00/07/10

★★★★

きれいにまとまっている読みやすい本

 英国ヴィクトリア朝における女性の下着の変遷に焦点を当てた、「新しい歴史学」系統の歴史学。著者の修士論文を核としたものらしいが、著者の現代の日本人女性としての立場からのコメントがあちこちにあって面白い本になっていた。おそらく本書の良いところは、「女性雑誌」に焦点を当てたところだろう。わざわざ「補論」として項を立てているが、たしかに歴史学で取り上げられる文献はメインストリームのまじめなものが多く、サブカルチャー的な文献を扱うにしても(サブカルチャー的なスタンスを軸にしている本や研究でない限り)メインストリームから「言及」するというような形で取り上げられることが多いように思われる。この本では、現代の女性雑誌を読んでいる一人の女性という立場から、ヴィクトリア朝の女性雑誌に現れているテキストを読むという試みがなされているようで面白かった。ただ、たとえばいまの日本の女性雑誌をもとに何かを論じてしまうと大変な勘違いを起こしてしまう可能性があるわけで(たとえば『笑われる日本人』は、レディース・コミックの内容をまともに受け取った外国人が書いた記事に対する批判を行っている。ただし私自身、このようなものをどのていどの水準で受け取ればよいのかわからない)、英国という異国の、しかもヴィクトリア朝という時代にまで遡った場合には、この辺りのより分けがもっと難しくなってくるだろう。何らかの定量的な処理をしないと(たとえばある概念を扱った記事の出現比率を定量的に分析する)、議論のベースにはしにくいかもしれない。

 主題そのものはまあ標準的。1つ新しく知ったことは、あの強烈なふくらみを持つ「クリノリンスカート」が、当時の女性にとってはむしろ動きやすい服装だったということだ。それまでは、スカートの広がりを保つために、スカートの下にペチコートを何枚も重ね着していたが、クリノリンスカートのおかげで相対的に軽くなったという。ただし、これも徐々にサイズが大きくなっていったため、動きにくさは増していった。その他、鉄道などの交通機関の発展による旅行ブーム、換気とか体操とか入浴に代表される健康ブーム、ギリシャ、日本などの異国ブームなど、ヴィクトリア朝のこの手のトピックをうまく「女性の下着」と絡めて論じている。

 なお、本書に直接該当するとは言わないが、欧米の歴史の「ちょっと面白い」話を集めた本を書いている日本人一般について。そういうのにはたいていネタ本がある。だから、そういう本についてはどこに著者のオリジナリティがあるのかがはっきりと示されているものを私は好む。

2000/8/5

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