出版クラッシュ!?

書店・出版社・取次 - 崩壊か再生か

安藤哲也、小田光雄、永江朗 / 編書房 / 00/08/10

★★★

業界内輪話

 小田光雄(『ブックオフと出版業界』『出版社と書店はいかにして消えていくか』)、永江朗(『不良のための読書術』)、安藤哲也(元往来堂書店店長、現在、bk1のサイト・コーディネーター)による出版業界内輪話の鼎談。

 『激震! 建設業界』みたいな業界ものジャーナリズムを読んだ後に、この本を読んで思うのは、業界人が業界について話をすることの限界だ。

 「あとがき」で小田光雄は、書籍の出版業界の改革案なるものを提示しているが、「再販制と委託制の廃止」のように賛成できるような項目の間に、「一年間書店の新規開店凍結」とか「一年間新刊書籍の刊行を中止」みたいな業界カルテルの発想が挟まっている。それで「新刊発行を一年間停止すれば、新古本産業に流入する新古本は激減すると予測される」なんだそうだ。こんなことは商道徳上好ましくないかもしれない、ブックオフに代表される新古本業界がいろいろな手段を使って一段と(テキスト市場での)シェアを伸ばすかもしれない、カルテル破りによる新刊書籍産業への本格的な参入の機会を与えることになるかもしれないという発想がここにはない。

 安藤哲也という人は、往来堂書店という小さな町の本屋の店長を務め、今年になってbk1というオンライン書店のコーディネーター(「店長」みたいな位置づけか)に転身した人。私は往来堂書店には1度だけ入ったことがある。このサイズの「町の本屋さん」にしては珍しいのかもしれないが、尖ったところのない普通の本屋さんだった。大規模書店のいくつかの棚のミニチュア版という感じで、オンライン書店という「大型書店」に移ったのはよく理解できる。

 以下、出版・書籍関係について個人的に思っていることをいくつか。

 この手の業界話では大型書店は敵視されることが多いが、都会型の大型書店は、品揃えだけでなく棚作りの面でもやはり優れているということは、本好きの人ならば誰でも賛成するだろうと思う。そのような大型書店が都会にしか作られず、地方との格差が生じるのは仕方がないことだ。都会に文化があるというのは、こういうことを指すのである。出版業界には、都市への人工集中と田舎の過疎化について心配する義理はない。どっちにしろこれまでも都会の書店中心に配本してきたわけなんだし。

 オープンしたばかりのオンライン書店、bk1では、書評家だけでなく読者による書評を重視するという方針をとっているようだ。これはマーケティングとしては正しい戦略だと思うが、消費者の立場からは無条件に歓迎するわけにはいかない。日本の書評(またそれに限らないさまざまなジャンルでのレビュー)の問題は、その大部分が利権絡みであり、消費者のための「格付け情報」のような指標にはならないというところにある(そのようなマーケティング・ツールとしての書評を除けば、残るのは業界権力闘争の場としての書評と、他人の本にかこつけた自分語りであり、この2つにはそれなりの商品価値を認める人がいるとしても、普通の人が読んでも楽しい娯楽とは言いがたい)。

 でまあ、書店がマーケティングをするのは当然のことである。既存の書店が行う棚作りや平積みも、もちろんマーケティングである。そのようなマニピュレーションは言ってみれば間接的な手段だったので問題もそんなに大きくはならないが、オンライン書店と書評の組み合わせは消費者にとっては危険なものになる可能性がある。以前、amazon.comが、公正な立場をとっているフリをして、その実はリベートを貰って特定の出版社の本を推奨していたことが判明して物議を醸したことがあったが、日本は、仮にそういうことが行われて表面化してもそれほど問題視されないような習慣を持つ国である。多くの定期刊行物の書評スペースは、金銭のやり取りはなくても、恩とか義理がやり取りされる場として機能してきたわけで。

 bk1やその他の「消費者からの投稿」を受け付けるショッピング・サイトの有益さの指標の1つは、基本的に「この本はつまらないから買うな」というメッセージを発している投稿がどれだけ掲載されるかということになると思う。amazon.comや(ショッピング・サイトではないが)IMDBは、この点である程度の公平さと透明性を確保しているように見えるので信頼が置ける。こういうものが日本で果たして可能なのかは興味深いところだ。

2000/8/12

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