バーチャル国家の時代

21世紀における富とパワー

The Rise of the Virtual State: Wealth and Power in the Coming Century

リチャード・ローズクランス / 日本経済新聞社 / 00/07/25

説得力のない本

 帯から引用。

グローバル経済では知的活動こそが富と力を生む。世界は、知的パワーを備える「頭脳国家」と製造中心の「身体国家」に分かれ、軍事力を行使しての大規模な国際紛争は減少していく――。豊富な例証をもとに大胆に展望する、21世紀世界。

 まあそういうタイプの楽観的な「グローバル経済」論。グローバル経済を論じるところでは『レクサスとオリーブの木』のような感じだが、『富のピラミッド』の「知識=パワー」みたいな話が中核にある。これらの本と同じように説得力がなく、論理ではなく大量の(怪しげな)例によって読者に納得してもらおうという態度で書かれた本だ。だからといって、この手の本の主張が間違っているということにはならないのはもちろんのことではある。これと正反対の立場で書かれているのが『製造業が国を救う』だが(その内容はタイトルから一目瞭然だろう)、『競争力』はアメリカ経済の近年の好調ぶりは製造業における生産性の向上に由来するという(正しい)議論をベースにしている本で、やはり本書の主張とは真っ向に対立するだろう。なお、本書で言う「頭脳国家」とか「バーチャル国家」は、何のことはない、少し前にはやっていた「産業の空洞化」をかっこよく言い換えた言葉である。

 国家間の分業が、本書が(肯定的に)描いているようなところまで進めば、これが新しい形の植民地主義であるということは誰の目にも明らかになってしまうだろう。『グローバル経済が世界を破壊する』の項で述べたように、これはバックラッシュを引き起こす可能性がある。この手の植民地主義が崩壊する原因には、(1) 植民地経営が本国にとってむしろ不利になる、(2) 強国が、自分が作ったルールを弱小国に押しつけることができなくなる、という、それぞれ国内政治と国際政治から生じる問題がある。本書で述べられているような新しい植民地主義は、まず「頭脳国家」が頭脳的活動のコストをファイナンスできなくなることから「頭脳国家」の側のポリシーが異常をきたし、それに対して「身体国家」の側が反乱を起こすというようなシナリオに沿って崩壊しそうな気がする。このとき日本がどちらの立場に立つのかきわめて興味深いところではある。

 いずれにせよ、こんな話を真面目に書く人がいるというのは気味が悪い。こういう話を、ここで「身体国家」と名指しされているインドや中国などの国が喜んで受け入れると思っているんだろうか。

2000/8/19

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