ピルグリム・ファーザーズという神話

作られた「アメリカ建国」

大西直樹 / 講談社 / 98/05/10

★★★★

きれいにまとめられているが、後半をもっと詳しく読みたい

 メイフラワー号、プリマス、Thanksgiving Dayなどにまつわるアメリカ建国神話の実際の姿を紹介し、またこの神話がどのような社会的背景で生まれてきたかを論じている。

 「講談社選書メチエ」の一冊なのでボリュームが少ないのは仕方がないのだが、特に後半の議論についてはもっと詳しいものを読みたかった。プリマスの神話が「初期共和国時代」(この本では1788年から1838年までとしている)に、共和国としてのアイデンティティを確立するためのツールとして使われたこと。Thanksgiving Dayの具体的な日の選定が、クリスマス商戦に向かうまでの年末の休日の数を増やせというビジネス界からの圧力を受けて、ローズヴェルト大統領によって行われたことなどなど、面白い話がいくつも紹介されている。

 Thanksgiving Dayについては、web上に興味深い記事がある。Teaching about Thanksgivingというもので、現在のアメリカにおいて、Thanksgiving Dayを「正しく教える」にはどうすればいいのかという問題を扱った論考。著者の一人はネイティブ・アメリカンの教師なのだが、とうぜんながら、このような人にとって現在のアメリカの学校で普通に行われているThanksgiving Dayの教育は受け入れがたいものなのだ。この記事には、内容自体が非常に興味深いことはもちろんだが、2つの重要なポイントがある。まず現在のアメリカにおいて、Thanksgiving Dayの神話が学校教育においても再生産されている事情がうかがえること、そして、この記事の著者がアメリカの建国神話の必要性を認めていて、その根本精神と矛盾しない形でThanksgiving Dayの話の別バージョンを作ろうとしていることである。

 この問題は、われわれ日本人にも参考になる。比較的新しい話でいえば太平洋戦争をどう教えるか。遡って戦国時代をどう教えるか。縄文時代と弥生時代をどう教えるかなどなど。弥生人が外からやってきて、縄文人が北と南に押しやられたという(ほぼ正しいと思われる)事情は、日本人のアイデンティティという問題に微妙にかかわってくる。そういうアイデンティティなんか不要だという議論も含めて、いろいろと難しい。

1998/5/23

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