書かれなかった戦争論

山中恒、山中典子 / 辺境社 / 00/07/01

★★★★

これはまた骨太な本だ

 『間違いだらけの少年H』の著者らによる、本格的な通時的な日中戦争史。日本が中国への進出を始めてから日米戦争の開戦に至るまでの歴史を、当時の資料をふんだんに引用して、「そのときの感じはどうだったのか」ということに焦点を置いて解説していくという本。この「そのときの感じ」を大事にする姿勢が『間違いだらけの少年H』と共通している。

 しかし、新聞記事などの公的資料に「そのときの感じ」がちゃんと反映されているのかという疑問は残る。『間違いだらけの少年H』は民衆の生活に関連したもっと身近な資料が多かったが、こちらの方はどちらかといえば「正史」という感じだ。でまあ、読み終えてみて、「あなたの歴史観が変わります!」という帯の主張に少し拍子抜けの感覚を味わった。そんなに言うほど変わらなかったのである。

 興味深いことの1つは、日中戦争の展開における「通貨戦争」の果たした役割を重要視していることである。ここの過程はきわめて懇切丁寧に説明されており、中国に進出したせいで経済的な泥沼にはまっていくという過程のなかで、中国の側の戦略が有効に機能していたということがよくわかる。日本の中国進出の経済的な失敗は、「植民地経営は経済的に引き合わない」という運命論的な文脈で理解されることが多いように思うが(もしかしたら違うかもしれないけど)、そこには中国の側の意図的なカウンター戦略があったのだということだ。

 著者は現在の日本における日中戦争・太平洋戦争の理解のされ方についてかなりの不満を抱いている。そして本書のような、当時の状況に遡って解説をする本によって、理解のされ方が改善されるだろうという使命感を持っている。しかし、私は本書を読んで「教訓」の部分には説得力を感じなかった。時系列的な事件の発生そのものからは価値観、ひいては歴史観は出てこないのであり、著者が示す価値基準は必ずしも事実をベースにしていないと思われた。著者が敵意を抱いている自由主義史観の陣営の作家も、同じ史料を同じ順序で引用して、自分に都合のいい結論を出せるだろう。

 なお、こういう本は、web上のハイパーリンクを使って書いた方がずっと読みやすいし効果的になると思う。『間違いだらけの少年H』のときも同じことを感じたが、これだけ引用文が多いと読みづらいだけでなく、フォーカスが失われがちになる。

2000/8/19

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