アメリカのユダヤ人迫害史

佐藤唯行 / 集英社 / 00/08/22

★★★★

読みやすい解説書

 アメリカにおける反ユダヤ主義の変遷を、いくつかの重要なトピックを並べて解説する本。紹介本ではあるけれども、読みやすい。

 アメリカにおける反ユダヤ主義は19世紀の末というかなり遅い時期から本格化する。ヨーロッパ大陸での「古い伝統」としての反ユダヤ主義とは異なり、アメリカでの反ユダヤ主義は現代的な資本主義国家への変身に伴って新たに生じた(または再発明された)行動様式であると考えられるが、これがヨーロッパからの移民が持ち込んだ伝統と組み合わされて、アメリカ独自の差別形態が生じた。

 反ユダヤ主義(anti-Semitism)は日本人にとって非常に理解しにくいものだと思うが、その一方で「ユダヤの金融陰謀論」を唱える人は跡を断たない。1990年代以降、これがとりわけアメリカをベースにするユダヤ人団体の目に障り、メディアに対する圧力がかけられたという事件が何度か起こっている。『ちびくろサンボよ すこやかによみがえれ』は、日本における黒人のステレオタイプに対する外国からの批判を取り上げて、そのような批判が日本の事情を無視した不適切なものであるという議論を展開しているが、この議論は反ユダヤ主義の方にもっと当てはまるはずだ。日本における反ユダヤ主義は「進歩的思想」として輸入されるものである、という事情は、外国人にはきわめてわかりにくいだろうと思う。われわれ日本人は世界に向かってこう主張すべきである: 「私たちには、そもそも誰がユダヤ人で誰がそうでないのかぜんぜんわかりませーん」。また、近い将来には次のように主張しなくてはならなくなるだろう: 「私たちにとっては、WASPもヒスパニックも白人でーす。英語にスペイン語訛りがあるかどうかなんて聞き分けられませーん」。

 「レイシズムに敏感になる」ことは必ずしもいいことではないという発想(「寝た子を起こす」論)は、少なくともこのレベルでは妥当だと思う。たとえば、日本の被抑圧階級に属する人がアメリカ(この文脈では他のどの国でも同じだが)に行って、その自由な雰囲気に感動したという話はよくあるが、アメリカの被抑圧階級に属する人は日本に来て同じような感動を抱くのである。アメリカ在住の黒人は「日本には黒人差別がないから楽だ」と言うことが多い。『犯罪捜査官』は、ヒスパニック系アメリカ人にとって韓国が楽園であるという話だった。

2000/8/26

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