縄文農耕の世界

DNA分析で何がわかったか

佐藤洋一郎 / PHP研究所 / 00/09/04

★★★★★

強烈に面白い

 『縄文時代の商人たち』に描かれていたような豊かな縄文世界像の1つの根拠となる生物学的な研究の紹介と思索。著者は、DNA分析を通して、三内丸山遺跡の集落がクリの栽培を行っていたことを示す研究を行った人。この研究の紹介をベースに、縄文時代における農耕の可能性にいろいろと言及し(プラント・オパール法の開発者による『稲作の起源を探る』にも言及している)、さらに人間社会の進化に伴う飼育化・栽培化(ドメスティケーション)一般に関する思索にまで踏み込んだ面白い本である。

 ごく簡単に概要を記せば、栽培化によって個体群の中の遺伝子に対する強い選抜が行われ、中立遺伝子までもが多様性を失っていく。だから、遺跡の出土品のDNAの揃い方を見れば、それが栽培された植物を起源にしたものなのかがわかるというわけである。本書の記述を読むかぎり、この手の研究はまだ始まったばかりであり、DNAのパターンの比較もずいぶんと粗いやり方でしか行っていない。

 なお、「おわりに」に、著者が縄文世界に寄せるロマン主義的な心情が書かれているが、これは『海を越えた縄文人』の項でも述べたように、かなり危ない傾向である。今後のこの分野での研究の進展に伴って、縄文時代から古墳時代までの歴史観は何度も大きな変動に見舞われるだろう。そのたびに現代日本の価値観を投影していると必ずや厄介なことになる。あんまり変なことは言わずに、地味に研究をしていてもらいたい。

2000/9/2

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