シェイクスピア・ミステリー

Alias Shakespeare: Solving the Greatest Literary Mystery of All Time

ジョーゼフ・ソブラン / 朝日新聞社 / 00/07/05

★★★★

ちょっと構成に難があるが

 シェイクスピア作者問題に関して、「オックスフォード派」の立場に立って書かれた本。著者はコラムニストで、要するに「好事家」の1人である。私はこの問題についてそこそこの興味を抱いていろいろと調べてきたが、反ストラットフォード派のなかではたしかにオックスフォード派が一番見込みがあるという印象を持っている。本書は構成に少しばかり難があるけれども、オックスフォード派の論点をわかりやすくまとめていると言えると思う。他にも「派」があるということを念頭に置くという前提で、この問題のフレームワークを理解したいという人にとっては入門書として適しているだろう。

 なお、シェイクスピア作者問題について簡単な紹介をしておく。いまシェイクスピアの作品として知られている数々の戯曲や詩が、ほんとうにストラットフォード=アポン=エイヴォンで生まれて死んだ、われわれがよく目にする肖像画に描かれているウィリアム・シェイクスピアの手によって書かれたものなのかどうか、という点についての論争が存在する。実際、シェイクスピアの作品がストラットフォードのウィリアム・シェイクスピアによって書かれたものであるということを支持する物的証拠はほとんどないと言ってよく、数少ない物的証拠の1つである本人の署名の汚さから、ストラットフォードのウィリアム・シェイクスピアが文盲であった(あるいはそこまで行かなくても、文字を書き慣れていなかった)可能性を指摘する人さえいる。彼がシェイクスピアの作者でないとすれば、誰か別の人が書いたことになり、あれだけのものを書いた人なのだから、いまでも名前が残っている有名人/教養人だろう。その中で、第一七代オックスフォード伯エドワード・ド・ヴィア(1550〜1604)が作者であると主張する「オックスフォード派(Oxfordians)」なるグループがいる、というわけだ。

 この問題は完全に政治化しており、中立的なレビューはなかなかない。私が思うに、「文学研究者」ではなく、シェイクスピアとオックスフォード伯が生きた時代の歴史研究の専門家がオープンなマインドで証拠を検討するのが一番なのだが、これといったものがあまり見つからない。シェイクスピアの作者問題は、英国人にとって、また文学研究者のコミュニティにとって難しいトピックなのであり、本書からもその難しさがどんな種類のものなのかが窺えるだろうと思う。

 なお、本書を読んでオックスフォード派の意見に傾いた人のために注意を1つ。ストラットフォードのウィリアム・シェイクスピアについての記録がほとんど残っておらず、エドワード・ド・ヴィアについての記録がたくさん残っていること自体から、マッチングのバイアスが生じていることを忘れてはならない。本書では、ド・ヴィアがシェイクスピアを書いたという説を補強する証拠をたくさん列挙しているが、記録がたくさん残っているからこそ、それらしい証拠をたくさん選び出せるのである。

 なお訳者のあとがきは、『山谷ブルース』以来の不快なものだった。

2000/9/9

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