記憶なき殺人

Mr. White's Confession

ロバート・クラーク / 講談社 / 00/09/15

★★★

ちょっと問題はあるが秀作

 著者のロバート・クラークはこれが2作目。1999年度のMWA賞最優秀長篇賞を受賞している。帯には、「チャンドラー『長いお別れ』、クラムリー『さらば甘き口づけ』の系譜に連なる傑作ハードボイルド」などと書かれているが、これは大嘘。

 第二次世界大戦が始まった頃のアメリカを舞台に、殺人の罪に問われる記憶障害を持つ男と、この犯罪の捜査に関わった刑事の2人を軸として進行する小説。障害を持つがゆえに浮き世離れした思索をめぐらすことができるという設定をうまく活かして、浮き世離れした思索を盛り込んでいるという点で、テクニカルな配慮が見られる。実際、小説技法にはかなり意識的で、導入部の人物・時代背景紹介のやり方なんかは教科書に載せてもいいぐらいだ。

 その一方で、語られる内容は反動的とでもいうべきステレオタイプで、だからこそ1930〜40年代という時代を選んだのかもしれないが、たとえばジョージ・P・ペレケーノスが最近試みているような過去の文脈の捉え直しとは無縁である。

 だが、この砂糖菓子のような甘さに少しばかりやられてしまったことも事実であった。とりわけ記憶障害を持つ男の映画の愛しかたの描写は美しい。でも、主人公二人のそれぞれのロマンスを初めとする全体的な登場人物の位置づけは、ちょっと許してもらえないんじゃないだろうか、1990年代には。そういう面を指して『長いお別れ』や『さらば甘き口づけ』の系譜に連なると言っているんであれば納得もする。

2000/9/24

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