囮弁護士

Personal Injuries

スコット・トゥロー / 文藝春秋 / 00/09/20

★★★★★

スコット・トゥローの最高傑作

 スコット・トゥローの新作にして最高傑作。これまでのトゥローの小説は、『推定無罪』"Presumed Innocent"、『立証責任』"The Burden of Proof"、『有罪答弁』"Guilty as Charged"、『われらが父たちの掟』"The Laws of Our Fathers"の4作。世の中には、『推定無罪』は良かったが、それ以降の作品はあまり良くないという評判があるようだが、私は、『推定無罪』はそれほどの出来ではなかったが、それ以降の作品は1作ごとに良くなっていると思っている。『推定無罪』は、その出版当時でも、リーガル・サスペンスとしては「標準的」な内容だった。ロー・スクール卒業直後に書いたノンフィクション『ハーヴァード・ロー・スクール』"One L"の著者としてすでに名を知っていた(ただし「スコット・タロー」という名前で)私は、あの大傑作を書いた人がどんなミステリ小説を書いてくれたのかと過度な期待を抱いていたので、いくぶんがっかりとした記憶がある。しかし、それ以降のトゥローは着実に作家としての成長を見せ、前作の『われらが父たちの掟』は堂々とした文学作品に仕上がっていた。

 本作『囮弁護士』では、その水準をさらに上回るという神業が達成されている。FBIが裁判官の汚職を摘発するためにおとり捜査を行うという話で、そのメインとなるプロットは文句なく一級品なのだが、それと並行して進行する主要登場人物たちの相互関係の変化がむしろ小説をドライブしていく。ジョン・ル・カレの『リトル・ドラマー・ガール』や、リチャード・ノース・パタースンのいくつかの小説を思い起こさせる、人間関係から生じる強烈なサスペンスが、本格的なリーガル・スリラーの枠組みの中にきれいに配置されている。

 ずいぶん遠いところまで連れてこられてしまったとため息をつくと、まだ本の半分しか進んでいないと気づく。そういうような本である。

2000/9/30

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