K2 嵐の夏

The Endless Knot

クルト・ディームベルガー / 山と渓谷社 / 00/09/01

★★★★

いくぶん情に流されているが貴重な記録

 著者は、1986年のK2での大量遭難事故で、悪天候の中、高所のキャンプに長期にわたって閉じ込められながらも生還した2人のうちの1人。『ビヨンド・リスク』にインタビューが収録されている。

 原書の発行年は1990年で、事故の発生からしばらくして、その経緯を振り返るという立場で書かれている。その時点で関係者数人による手記がすでに公開されており、それらに対する反論ないし異議申し立てを行うという意図もあるようだが、遭難の際にキャンプで死亡した登山パートナーのジュリー・テュリスの名誉を回復するという動機が一番強かったのではないかと思われる。そのために感傷的な記述が多くなっているのだが、あの年のK2での出来事を記した貴重な記録であることは間違いない。なお、訳書は一部割愛して編集しているとのこと。

 この大量遭難も、『空へ』『デス・ゾーン8848M』の主題である1996年のエヴェレストの大量遭難と同じように、頂上付近での登山家の過密状態が大きな原因の1つとなった。エヴェレストのケースには営業遠征隊という独特の要因があったが、こちらは経験を積んだ有能な登山家の集団に起こった事故であり、事態の性質はいっそう深刻だったと言えるだろう。本書では、頂上近くまで登った登山家のさまざまな心理状態が(前パラグラフのような事情もあって)詳しく記されていて興味深い。たとえば、高所のキャンプで他人に物資やキャンプのスペースなどのリソースを分け与えるときに、どんな感じがするものなのか。一緒に登る人をどのように決めるのか。ひとは高所でどのように衰弱していくのか。登山家としてすでに十分なキャリアを積んでいるだけあって、下手な粉飾をせずに素直に書いているように思われる。

2000/9/30

TRCの該当ページへ

amazon.comの該当ページへ

検索ページへ 目次へ 前へ 次へ