米本土決戦

Invasion

エリック・L・ハリー / 二見書房 / 00/10/25

★★★★★

問題はあるが、やはり読み応え十分

 『最終戦争』、『全面戦争』『サイバー戦争』のエリック・L・ハリーの新作。私は、この人は現代の軍事スリラー作家の中で最も優れた人であると思っており、少々の難点があっても受け入れる心の準備ができている。で、この新作にはいくつか難点があったのだが、心の準備のせいで受け入れてしまった。このような先入観がない人は、ちょっと困るかもしれない、ということを前もって断っておく。

 『全面戦争』では、シベリアにおけるアメリカと中国の歩兵たちの衝突が描かれたが、本書では中国軍がアメリカ本土に侵入してきて、最後の決戦はワシントンの郊外で行われる。『最終戦争』は全面核戦争という巨大なテーマに真っ向から取り組んだ小説で、あれを書いてしまった以上、もう著者はとうぶんのあいだ核戦争については書かなくてもいいはずだ。本書では、1) 核兵器の抑止力に加えて、2) 宇宙空間の軍事利用の禁止というファクターを入れて、21世紀の戦争が第一次世界大戦のような歩兵の消耗戦に逆戻りするという設定を作っている。

 1984年のジョン・ミリアス監督の『若き勇者たち』(Red Dawn)という映画は、アメリカの領土に侵入したソ連軍に対して、若者が武器をとって立ち上がるというきわめて「レーガン的」な映画だった。あの頃は、この種のストーリーで、ソ連軍の役割が中国軍にとって代わられることになるとはまったく予想できなかったが、最近のアメリカ製軍事スリラーでは、戦場がどこになるかは別にしても、アメリカの仮想敵国は圧倒的にアジアの国(中国、北朝鮮、日本など)が多い。

 『全面戦争』と同様に、本書はアメリカの若者の戦場における成長を描くビルドゥングスロマーンの要素が強い。今回の主役はハイスクールを出たばかりの少女で、『若き勇者たち』よりも『スターシップ・トゥルーパーズ』を思い出させる。この戦場の描写は『全面戦争』と同じく強烈で、読み応え十分だ。

 本書にはいくつかの問題があるが、一番大きいのは、本書が著者のこれまでの小説よりも予定調和的なストーリー運びになっているということだろう。全面戦争の項で、私は次のように書いた。

もう1つ。この著者は、あるシチュエーションの中で起こる危機を、まったく予想できないところから持ってきて、それによってお話に現実味を持たせるという手腕に長けている。次々と訪れる危機がすべて予想できるクーンツ的なストーリー組み立ての対極にあるといえる。この予想のできなさは、次のような手法で実現されているのではないか。すなわち、特定の状況があったとき、まずその状況で発生しうる危機要因を列挙する。いったん列挙したら、それをすべて捨てて、そのリストに含まれていない、マイナーな要因が危機を生み出すとしたらどういう風になるかを考え、その後は圧倒的な細密描写によってリアリティを持たせてしまう。このテクニックを多数の同時進行する状況にあてはめていくと、制御不可能な事件があちこちでカオティックに発生し、人間はそれに翻弄されていくという重厚な雰囲気が醸成される。

 この美点が本書では失われている。ただしこれによってリーダビリティが高まり、(とりわけアメリカの)読者の受けがよくなるという効果が生じている可能性はある。個人的には残念なことだが。

 なお、『全面戦争』の凄味の1つは、敵国である中国の、戦略レベルでの意思決定がまったく描かれていないという点にあった。残念ながら、本書ではアメリカと中国の両国の様子を戦略レベルで描写することによってサスペンスを醸成するという(当たり前の)手法が使われている。これもまたリーダビリティの向上には貢献しているだろうが、やはり残念だ。

 もちろん、登場人物の配置が、やはり陳腐なものになっているという欠点がある。それによって確かに通俗的なドラマは盛り上がるのだが、これまでの著者のハードボイルドなタッチが失われたことは否定できない。

 もしこの路線を進むのであれば、エリック・L・ハリーは私の中で普通の軍事スリラー作家に格下げしなくてはならなくなるだろう。そうならないことを期待しているが、ちょっと心配になってきた。戦闘シーンの描写力が優れているだけに、余計うっとうしいものになってしまう可能性があるからだ。

2000/10/7

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