ある日突然、警察に呼び出されたら、どうするどうなる

石原豊昭、国部徹 / 明日香出版社 / 00/10/31

★★★

どうもはっきりしないところが興味深い

 別に警察の厄介になるような予定もないのだが、読んでみた。明日香出版社の「実用法律」というカテゴリに入る実用的なマニュアル本の1冊である。著者の2人の弁護士が、市民が警察とどう関わればよいかという実践的なアドバイスをしてくれる。

 これがまたずいぶんと中途半端で面白い。この手の本は三一書房がずいぶんと得意だったが、あのような戦闘的な態度ではなく、きわめて1990年代的に穏当な態度なんである。そんな態度でこのようなトピックの本を書けるのか、と思うかもしれないが、それをたしかにやっている。たとえば、警察が家宅捜査をしに押しかけてきたときに、令状を確認すべきだという記述(142ページ)。

その令状をコピーできれば簡単なのですが、進んでそれをやらせてくれる警察官はまずいないと思います。ですから、弁護士に相談するから書き写させてくれとでも言って、是非とも内容を書き取るように心がけてください。それがせめてもの抵抗でしょう。

 アメリカのリーガル・スリラーが面白いのは、もっぱら刑事訴訟手続きが「面白い」からである。日本はこの面では(少なくともスリラー愛好者から見れば)遅れており、興味深い状況を設定するのが非常に難しいのだと思われる。取調室で刑事が被疑者にカツ丼を食わせると自白する、というようなシチュエーションを面白くするのは不可能に近い。もちろん、『アメリカ司法戦略』で書いたように、現代的な刑事訴訟手続きが実社会で、またエンタテインメント小説で確立されたのはそれほど昔のことではない。1980年代初頭でもなお、「警官がミランダ警告を行っていなかったために無罪になった」というようなプロットを真面目に使えていたのである(ミランダ警告については、最近になって緩和論が出ているようだが)。

 もちろん、小説や映画などのメディアで描かれる状況と現実の間には、ずれがあるし、そのことはみんな承知している。だが、こういうメディアの教育的な役割を軽視してはならない。たとえば、警察に不当な扱われ方をされたときに「私には弁護士を呼ぶ権利がある」という一声を発するという身体的なレベルでの反応を、人々はメディアを通してシミュレートし、身に着けることができるのだ。

2000/10/28

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