テロリズムとは何か

佐渡龍己 / 文藝春秋 / 00/09/20

★★

危機管理の立場からのテロリズム論

 著者はスリランカ日本大使館に勤務した経験のある元自衛官(いわゆる「大使館付き」というやつ)。テロリズムを危機管理という立場から論じている本。コンサルタント本、ビジネス書のような印象を受ける。

 「テロリズムは国家に対する戦争行為であり、断固として立ち向かわなくてはならない。日本の「人命尊重」の態度はリスクを高めているだけである」ということを言いたがっている。その論拠は常識の範囲内。実際、この問題をこういう風に規定したら、あとは実践しかない。

 しかし、冷静に考えると、テロリズムに関する日本のレコードは「それほど」は悪くないのである。国内のテロで死者が出たのはずいぶん前のことだし(オウムの件は、著者はテロリズムに分類しているが、私は少なくともこの文脈では違うと思う)、海外での、特に日本人をターゲットとして行われたテロリズムはそれほどは多くなく、死者も少ない。つまり、「テロリズムは国家に対する戦争行為である」と規定したとしても、日本のいまとっている戦略は、いってみれば非武装路線がうまく行っているという事例なのかもしれない。とりわけ国内での左翼テロがスケールダウンしているのは、公安警察の活動にもその原因があるだろうけれども、日本全国に行き渡っている「平和ボケ」が抑止効果を発揮している可能性が高い。

 もちろんこれからどうなるかは不明。キルギスでの日本人拉致事件は、ペルー大使公邸占拠事件(『封殺された対話』は良い本)での日本政府の弱腰ぶりを見て、意識的に日本人をターゲットとしたと思われ、今後そういう動きが頻発したときが、このノーガード戦法の試練のときである。ただ、そうなったとしても、犠牲者の数が、交通事故での死亡者数はもちろん、航空機事故での死亡者数よりもはるかに少ないことは間違いないだろう。「テロリストと取引はしない」というモデルを採用しているアメリカが戦々兢々としなければならない今後の世界において、日本のこの戦略がむしろコスト/ベネフィットが高くなる可能性もないわけではない。

 なお、本稿の執筆中に日本赤軍の重信房子が大阪で潜伏中に逮捕されるという出来事が起こった。老いた姿が哀しいのは青春アイドル・スターとテロリスト。

2000/11/11

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