テレビ報道の正しい見方

草野厚 / PHP研究所 / 00/11/06

★★★★★

これは面白い

 草野厚が著者となっているが、PHP研究所がスポンサーとなっている「政治とメディア」研究会の成果物ということらしい。テレビ報道のバイアスを明らかにするための地道なフィールドワーク、そのようなバイアスが生じるプロセスの解説、そのようなバイアスを正す(あるいは監視する)ためのメカニズムが現時点ではないという指摘、そしてメディア・リテラシー全般に関する提言と、1冊の新書に豊富な材料が詰め込まれた良い本だった。

 『アメリカ人はなぜメディアを信用しないのか』は、アメリカのTV報道番組に対する信頼の低下を論じた本だった。しかし、これは日本のTVメディアが抱えている問題の数段階先の話。

 いくつかの問題が提起されているが、特に重要だと思ったのは、第一部「ドキュメンタリー番組の検証」の第1章である。ここでは、トルコ大震災の際の日本のODA活動を扱ったNHKのドキュメンタリー番組が偏向しているとして批判されている。偏向していないものを作るのはおよそ不可能であるのだし、NHKは格別中立性で売っているテレビ局ではないのだから、偏向していること自体はそれほど問題にはならない。問題なのは、この番組の放映後に政治家からの圧力を受けて、NHKが通常のニュースの配分具合を操作したということ、そしてそのことをどうやらNHK側が「良いことだ」と思っているらしいことである。

 私はNHKの内部事情に詳しくはないが、ドキュメンタリー番組の製作と、ニュース番組とディレクションのラインは別のものであるはずだ。したがって、ニュース番組のディレクションの現場は、自分とは直接関係のないところの問題を発端とする政治的な動きの圧力を上から受けて、微妙なさじ加減をしたということになる。具体的には、トルコ関連のニュースを、しかも日本の関与をポジティブに扱うようなニュースの量を増やしたという。

 深刻なのは、1本のドキュメンタリー番組であれば、後からの検証も比較的簡単だし(ただし本書で再三指摘されているように、TVで放映された番組の検証はすべて難しいのだが)、ディレクションの意図も見えやすいのに対し、ニュースの量を増やすというようなさじ加減は検証するのも、そもそも気づくのも難しいということだ。情報操作による世論誘導の最悪のパターンであり、それだけに、ニュース番組のディレクターは大きな責任を負っていると言えると思うが、このケースでは「われわれはジャーナリストだ! 政治の介入は許さないぞ!」というようなシナリオは起こらなかったわけである。それどころか、NHK側はそのような措置を取ったことを、偏向しているとされた番組を作ったことに対する罪ほろぼしのように考えている可能性がある。

 まあ、テレビのニュース番組のディレクター(いわゆる「デスク」)はその程度のものなんだ、という言い方もありうるとは思うが、テレビ朝日やフジテレビなどのニュース番組の方が「透明性」が保たれていて安心できるという見方にも一抹の真理があるのかもしれない、と思ったことだった。

 ちなみに、本書ではこの論点は軽く触れるだけに留めている。基本的なメディア・リテラシーの啓蒙がテーマだからだろう。

 著者が主催しているメディア検証機構のサイト

2000/11/11

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