悪問だらけの大学入試

河合塾から見えること

丹羽健夫 / 集英社 / 00/12/20

★★★★

予備校の弁明

 著者は河合塾の偉い人。2000年の春に、河合塾は大学入試問題の作成を請け負うことを発表して話題を呼んだ。本書はその際に起こったさまざまな議論に対する反論と、予備校の立場に立った弁明という目的を持っているものと思われる。大学入試問題そのものに関する記述はそれほど多くなく、オルタナティブな教育機関としての予備校という立場の弁護が多い。

 私が知らなかったことは、多くの大学で教養部が廃止された結果として、大学入試問題の質が1990年代に入って急激に低下したということだった。そういうことが生じることは容易に想像できるけれども、大学に限らず、多くの入試問題に悪問が多いことは遠い昔からの受験生の常識だったように思う。そして、著者が述べているように、予備校などの受験産業業者が作る模擬試験などの方が、一般に問題としての品質は高くなる。これは、問題作成者にどういうインセンティブが働いているかということから生じる構造的な問題である。

 したがって、予備校が入試問題の作成を請け負う方が、問題の質が高くなるのは当然である。弊害は、受験生の側が、大学が出す入試問題の質から、そこで受けられる教育の質を推定することができなくなる、ということだ。まあ、もしかしたら現代のたいがいの受験生には、意思決定にそのような指標を利用する余裕もないのかもしれないのだが。

 予備校そのものに関する記述には、散漫ながらも、興味深いものがたくさんある。特に134ページ以降の「日中韓三国の入試問題比較」は面白く、「人権についての問題で生徒の出来具合は、日韓の生徒は正答がいずれの国もほぼ半数であったのに対し、中国はほとんど全員が正答であった」というのが楽しい。

 今後、予備校などの民間の教育関連業者の果たす役割はますます大きくなっていくだろう。大学の教養レベルまでを予備校にアウトソーシングするということも、今後は行われるようになると思う。それがいいことなのか悪いことなのかは難しいところだが、ちょっと修正不可能なほどの慣性が生じているような気がする。

2000/12/23

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