数学者が新聞を読むと

A Mathematician Reads the Newspaper

ジョン・A・パウロス / 飛鳥新社 / 98/06/13

★★★

類書のなかではまともな方

 科学者が、統計学や確率論を持ち出して、メディアにおける社会問題の取り上げられ方を批判するという、よくあるタイプの本だが、かなりまともだという印象を受けた。このタイプの本には「と学会的」な本がときどき見られる(マーチン・ガードナーの『奇妙な論理』はその代表例だ)が、この本の著者はなかなか健全である。著者は一般向けの文章をよく書いている人らしい。

 61ページに、「ランダムな他人に、何段階の知人を介して行き着けるか」の問題の変種として、「セックス・サブグラフ」というものを取り上げている。セックスしたことがあるという関係をもとにdisjointなグループを作っていったときに、これがアメリカ人の間でどのような分布をしているだろうかという問いに対して、著者は次のような推測をする。まず独身者がメンバー1人のグループを作る。次に、一夫一妻的な、メンバーが2人しかいないグループが多数ある。それ以上の、3人、4人、5人などの人数のグループは比較的少ない。そして残った全員が1つの、1億人ぐらいのメンバーを持つ巨大なグループに入る、というのである。たぶんこれは当たっているだろう。着眼点の良い、気のきいた例である。

 なお、この本の翻訳には問題がある。たとえば、上で挙げたセックス・サブグラフの箇所で、次のような部分がある。

次に、一夫一妻的二者関係が数多くあり、メンバーのどちらも他の誰ともセックスしたことがなく、したがって、それぞれ2人だけのグループをなしている。メンバーの数が3人、4人、5人あるいは、もっと小さいグループは比較的少ない。それから、残りの米国成人人口が一つの大きなグループに入る。

 この部分の2文目の「もっと小さいグループ」。3、4、5人よりも「もっと小さい」といえば1と2しかないわけだが、そういう意味でないことは明らかだ。原文を見たわけではないので確かではないが、これは"smaller groups"なんだろう。「比較的少数のメンバーのグループ」、つまり6人以上のグループのことを指している。

 156ページでは、諷刺科学雑誌の名称「ジャーナル・オブ・イリプロデューシブル・リザルツ」の訳として、カッコに入れて「回復不能な結果」としているが、これは「再現性のない結果」だろう。

 その他、原文の姿を想像した上で、初めてそこに込められているユーモアの意味がわかるという箇所が散見された。翻訳者がそのユーモアに気づいているのか不安だ。どうやら原文は「格調の高い」、「美文調」の文章らしい。

1998/5/31

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