百貨店が復活する日

21世紀日本流通市場論

松岡真宏 / 日経BP社 / 00/10/10

★★★★★

実に面白く刺激的な本

 著者はUBSウォーバーグ証券のアナリスト。小売業界のアナリストとして人気のある人。本書は世間でよく言われていることとは反対の、21世紀に向けての百貨店の復活を唱える挑発的な本である。ただし、「世間でよく言われている」とは書いたものの、百貨店の株価は実際に2000年の後半辺りで底打ちし、反転上昇傾向にあるようだ。もちろん、「外資系証券のアナリストが百貨店の復活を予想している」ことが「株価が上昇している」ことの原因なのであって、その逆ではない。また「株価が上昇する」ことが「復活」に直接結びつくものでもない。証券アナリストである著者は、百貨店の現在の経営者に対する圧力として、生き残りの必要条件としての株価上昇、という論理を使っている。その点で、本書は一般人向けの本の体裁をとっているが、ほんとうは百貨店経営者に対する脅し(そして勇気付け)の本なのである。

 いろんな意味で「頭の良い人」が書いた本だ。巧みに書かれた脅迫状という文脈で楽しめる本ではある。

 いくつか非常に興味深い論点があるが、特に良かったのは「日本的流通」を擁護する部分だった。日本の問屋は、小売り業者の新規参入障壁を低くすることによって競争を高める役割を果たしており、消費者の利益になっているという論理である。これは最近よく言われるようになった「日本的メカニズムの優秀さががITの導入を遅らせている」というタイプの議論と似た構造にある。日本的なワークスペースの優秀さがあるから企業へのPCの導入が労働生産性の向上に結びつかない、日本的な総合商社があるからB2Bコマースが効率化に結びつかない、など。

 でまあ内容は面白いのだが、私自身は百貨店での買い物をほとんどしないので、身体的なレベルでは納得しにくい。

 巻末に東武百貨店の社長と大丸の社長との鼎談、通産省の役人との対談が収録されている。対談相手が著者の本を読んだ上で論争をしているという有益な内容である。まあ著者がなめられているのかもしれないのだが、こういう対談ができるというのは良いことだ。

2000/12/30

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