夏草の記憶

Breakheart Hill

トマス・H・クック / 文藝春秋 / 99/09/10

★★

テクニカルな面で大いに問題あり

 『夜の記憶』に感動して、あわてて本作も読んでみた。それにしても、この邦題はなんとかならないのか。

 『夜の記憶』が3人称を使用していたのに対し、この『夏草の記憶』は1人称小説である。歳をとった主人公が過去の自らの罪を回想する。これは、この後に読んだ『緋色の記憶』でも同じ。

 過去の事件の1人称による回想でサプライズを作るという形式には、根本的な問題がある。簡単に言えば、語り手はどういう目的で誰に対してこの物語を語っているのか、という疑問がつねにつきまとうということである。1つの可能性としては、自らの罪を悔い改める目的での「告白」が考えられる。しかし、その形式ではサプライズを作ることは難しい。そのため本作は、若者がキャンプファイヤーを囲んで語るホラー・ストーリーのような古典的形式をとっている。しかし、自分が過去に犯した大きな罪を語るのに、読み手が受けるショックを最大化することを狙ったような語り口を利用するというのは、無神経としか言いようがない。

 それだけでなく、本書の語り口にはものすごく基本的なところで欠陥がある。語られる事件のなかで、主人公/語り手はいくつかの契機に「事実」を発見する。一方本書は、これらの事実をすべて知った段階で、当人が語っている物語である。だが、これらの知識が、彼が語る過去の物語に反映されるかどうかという点での統一がとれておらず、すべてを知った神の目からの記述と、経験の現在進行形の記述が統一感なく混在している。これは物語の作話上のルール違反である。

 こんなバカげた本が出版されたことがそもそも不思議だ。

2001/2/3

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