軍事介入

Trial by Fire

ハロルド・コイル / 新潮文庫 / 1998/02/01

★★★★

重厚かつ緻密。面白い

 ハロルド・コイルは元アメリカ陸軍少佐の作家で、軍事ものをいくつか書いているが、この『軍事介入』はそうとう良い出来だった。

 メキシコで軍部によるクーデターが起こる。狙われた麻薬王はかろうじて脱出し、傭兵を雇って軍部政権の打倒を目指す。どうするかというと、アメリカとの国境でテロを起こして、アメリカ軍にメキシコを攻撃させるのである。とまあ、このようなリアリスティックなプロットを軸に、複数の登場人物を配して、場面をあちこち飛ばせるスタイルを完全に成功させている。この失敗しがちなスタイルが成功しているのは、個々の場面における各登場人物の役割をはっきりと定義しているためだと思われる。

 一例をあげると、メキシコに侵攻する米陸軍の描き方。「主人公」とまではいかないが、かなり重要な役割を果たす人物の1人に、女性の少尉がいる。この人は、女性将校を前線で戦う部隊に配置するというプログラムの最初の実験グループみたいな形で戦車部隊に配属され、思わぬことに、すぐに実戦に投入されてしまう。やはり重要な役割を果たす、参謀部詰の大尉。この人は左遷された形でこの戦車部隊に配属され、この女性少尉の指導という面倒な仕事を押し付けられる。

 これだけならばありがちな設定なのだけれども、この小説の優れているところは、アメリカ陸軍がメキシコに入っていくという作戦行動の描写の中で、女性少尉の行動は陸軍の戦術的な側面を担い、大尉の行動は戦略的な側面を担うという役割分担がはっきりとできていることだ。それだけでなく、メキシコ軍の大佐、アメリカ人ジャーナリスト、アメリカ人の下院議員など、それぞれの登場人物がプロット内での役割を過不足なく演じている。それだと機械的になるのではないかと心配する向きもあるかもしれないが、女性少尉がろくに訓練を受けないまま初めての戦場に入っていき、成長していくストーリーは、それだけを取り出してもかなりのものだった。

 トム・クランシーみたいな単細胞ではない。メキシコでの軍事クーデターをどう評価すべきかがよくわからない、アメリカ的な単純な人権外交では解決できない、というストーリーを語る役割のキャラクター(女性ジャーナリスト)も登場する。こうやって振り返ると、この小説はかなり性善説に則っており、多くの人が正しく行動をし、それなのにコンフリクトが生じるというリアリティをうまく描き出すことに成功している。

 面白かった。ハロルド・コイルはぜんぶ読みたい。

1998/3/25

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