Void Moon

Void Moon

マイクル・コナリー / Warner Vision Books / 00/01/05

★★★★★

ずいぶんと毛色が違うが楽しい

 マイクル・コナリーのシリーズ外作品3作目。『わが心臓の痛み』の後、1999年にボッシュ・シリーズの"Angels Flight"が出ており、その次が本作ということになる。

 本作はコナリーの本にしては珍しく(というか初めてか?)、主人公が(元)法執行官ではない。カジノの客を専門に狙う泥棒と、それを追う私立探偵の2人を中心に進んでいくアウトロー小説で、両人が行う犯罪的行為のプロセスを細かく描写する手順小説である。ストーリー展開の意外さはあまり重視されず、ある事件が始まってから終わるまでの経緯を淡々と描くクールな犯罪小説といった趣きか。

 本作が成功しているかどうかは微妙なところだ。両人の具体的な行為の細部を除けば、ストーリーはかなりの部分まで予期可能で、古典的といってもいい。しかし、その枠組みが安定しているがゆえに、細部が活きていることも事実なのである。最近読んだ『Mr.クイン』も悪漢を主人公とする手順小説だったが、あちらと比較するとどちらのアプローチの方が正しいかがよくわかる。『Mr.クイン』では、主人公のクインが小説内で描かれていた犯罪行為をこれまでずっとやってきたという感じをぜんぜん受けなかった、つまりあの1冊のためだけに人工的に作られたプロットであるという印象が強かった。一方、この"Void Moon"で描かれる泥棒と私立探偵の両方の側のプロセスは、彼らがこれまでのキャリアの中で何度も繰り返してきた仕事であると納得できるような現実味を帯びている。だからこそ、そのプロセスが成功したときの喜びと失敗したときの狼狽が伝わってくるのだ。

 以下、ネタバレなので未読の人は読まないように。

 本書の最も興味深い点は、泥棒のCassie Blackが主人公なのかと思いきや、彼女を追う私立探偵Jack Karchの方がずっと魅力的な人物として設定されているところだろう。古典的なピカレスク・ロマン的な魅力ではないが、普通の小説や映画ではあまり見たことのないような形容しがたい現実感がこの人物にはある。一番近いのは、ジャン=ピエール・メルヴィルなどのフィルム・ノワールだ。本書を最後までCassie Blackを主人公とする小説だと思って読んだ人は、読了後、裏切られたと思うだろう。これが意図的な小説構造上の「どんでん返し」なのか、人物描写の配分の失敗なのかは不明だけれども、破格な小説であることは間違いない。70:30ぐらいで「失敗作」である予感がするのだが、いろいろと考える手がかりを与えてくれた小説ではあった。

2001/2/10

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