前代未聞のイングランド

英国内の風変わりな人々

The English: A Portrait of a People

ジェレミー・パクスマン / 筑摩書房 / 01/02/10

★★

わざわざ読むほどのものでもないか

 著者はジャーナリストで、BBCのTV番組のホストとして有名な人。訳者あとがきには「日本で言えば、久米弘と田原総一郎とを重ね合わせた人物」などという紹介文があるが、それよりかははるかにまともなインテリ指向の人。本書は"The English"、すなわちイングランド人を主題とするイングランド人論。イングランド人自身、また英国のイングランド人以外の人々、そして外国人たちが、イングランド人とイングランドについてどのような観念を抱いてきたかということを、歴史的な資料をふんだんに引用しながら論じていくという、あまりまとまりのないエッセイである。

 本書の対象読者はもっぱら英国人であり、著者は英国の知識人らしくかなりひねくれているので、ある意味で非常に難解な本になっている。日本人がこの本を読むためには、(1) 平均的日本人が英国とイングランドについて知っている事柄は当然の前提として、(2) 英国人とイングランド人、およびヨーロッパ諸国の平均的人々が英国とイングランドについてどう思っているか、を知り、(3) そのような観念に対する、英国内でのひねくれた批判にはどのようなものがあるか、ということを知り、その上で、(4) 著者がさらにどのようにひねくれたことを言っているのか、を理解しなくてはならない。単なるひねくれ方ではなく、著者独自のひねくれ方が本書の売りであり、魅力であるはずだからである。山本七平の『空気の研究』みたいな、文化/思潮/論壇のコンテキストに大きく依存する本が外国語に翻訳されたとしても、それを日本に関する深い知識がない外国人が読んで理解できるはずがない、というような意味で、この本はとても難しい。

 私はそこまでの知識を持っていないので、テキストの書かれ方から著者の勝負所がどこなのかを推測せざるをえなかった。いまの日本には、英国を訪れた日本人が英国人の国民性についていろいろと書く「英国本」とでも言うべきニッチ・マーケットがあるように思うが、そのような本が好きで多く読んでいる読者にとっては、かなり意外な主張が多く発見できるかもしれない。ただし注意しなければならないのは、本書はそのような「英国本」の前提から2回ひねっているということである。おそらくいったんリベラルにひねったものを、モデレートな保守にひねっている。上で山本七平の名を出したのは、そのような印象からの連想だ。

 具体的なトピックには、イングランド国教会の世俗性の肯定的な言及、イングランドの田園地帯という幻想に対する批判的な言及、一般的なイングランド人像についての普通の言及などがある。いずれも、こうした観念の変遷をかなり古い時代から現代まで跡づけた上で論じているので役に立つ。ただし資料の選び方はきわめて恣意的。

 翻訳が非常に不安であることもあって、普通の人にはあまり勧められない。

2001/2/25

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