Shadow Woman

Shadow Woman

トマス・ペリー / Ivy Books / 97/01/01

★★★★★

強烈に面白い

 『蒸発請負人』『Dance for the Dead』に続くジェーン・ホワイトフィールド・シリーズの3作目。出版は1997年で、翻訳はまだ出ていない。

 『Dance for the Dead』の項で、このシリーズに対する不安のことを書いたが、それはまったくの杞憂だった。本作は新たな境地を開くことによって、第1作と第2作を超える傑作となっている。amazon.comの読者コメントでは、本作が主人公やその周辺人物のロマンス小説っぽくなっていることに関する不満を書いている人がいるけれども、これはむしろ心理描写が充実していると言うべきだ。実際、この物語では心理ドラマから生じるサスペンスが大きな要素を占めている。

 本作では、「ガイド」であるジェーンに加えて、そのクライアントである男、彼を追いかけるプロのカップルたちのそれぞれの心理的な綾に焦点が当てられている。これまでの作品で構築したフレームワークの中に生きる人々が、どのようなことを考え、どのような気持ちを抱くのかというシミュレーションだ。特に興味深かったのはクライアントの男で、ごく普通の人間がジェーンの指示に従って逃げることを選択したときに、どのようにその指示に従い切れなくなるかを読者が納得できるような形で描いている。

 実際、本書では(ここのところ異論もあるかもしれないが)すべての登場人物が「合理的」な行動を取る。追う者と追われる者、あるいは対決する者たちを巡るスリラーの小説や映画では、ときとして登場人物たちがとる愚かな行動が物語を前進させる。しかしトマス・ペリーはそういう安易な手段をとらず、すべての人がぎりぎりまで合理的な行動をとってもなお、サスペンスが醸成されるというようなシチュエーションを作ることに心を砕いているように見える。もちろん、物語の読者という神の視点で見た場合に「愚か」と思える行動はいくつか見られるけれども、そのような行動に迫られる登場人物の心理的プロセスを描くことによって合理化/正当化を行うわけである。

 ただし、ちょっとした問題がある。地の文の説明がくどくなることだ。本書の登場人物はいずれも尋常ではない状況に投げ込まれ、尋常ではない反応をすることを迫られる。そして本書の地の文の非常に多くの部分が、その反応の内的プロセスを説明することに費やされているように見える。これは、ひとによっては「もういいから、次いこ、次」というような印象を与えるかもしれない。私はといえば、1作目と2作目で作った舞台の中で心理劇を作る試みという感じがして非常に楽しめた。ロマンスっぽい記述も、このレベルならばOKというか、喜んで読んだのだった。ただこう言っちゃなんだが、ジェーン・ホワイトフィールドってあんまり魅力的な人物造型になっていないな。

2001/4/14

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