パラサイト・レックス

生物進化のカギは寄生生物が握っていた

Parasite Rex: Inside the Bizarre World of Nature's Most Dangerous Creatures

カール・ジンマー / 光文社 / 01/03/30

★★★★★

面白い

 著者はジャーナリスト。パラサイト(寄生虫、寄生生物)をめぐるさまざまな研究の動向を紹介する本。たまたま続けて読んだドーキンスの『虹の解体』と比較すると、ジャーナリストの立場の有利さを強く感じる。実に有用で面白い本だった。

 「パラサイト」という言葉と概念のメタファーの変遷、生物学におけるパラサイトの研究史、いくつもの興味深い事例、そして行動生態学における最新の(1990年代以降の)研究といった広いトピックをカバーしている。あまり声高に喧伝するという感じではないが、パラサイトに関する知見が生物進化の観念に与えうる影響は、「利己的な遺伝子」に匹敵する巨大なものになる可能性がある。まあ要するに「延長された表現型」のことであり、そのような観念の転換についての理論的可能性は示唆されていたわけだけれども、いざそれを支持する証拠が大量に出回ったら、これまでの心の準備が追いつかなくなるかもしれない、と思ったことだった。この読書メモでは、この「観念の大転換」(なんならパラダイム・シフトという言葉を使ってもよいが)の具体的な例として、生物のカタストロフィックな大絶滅説の受容に伴う地質学的な斉一説の揺らぎ(『大絶滅』など)、進化論の受容と人間進化の唯物論的な説明の受容に伴う生物学的決定論の勢力の拡大(『優生学の復活?』など)などに言及しているが、これらは私が実際に生きたここ20年ぐらいのタイムフレームの中で起こったことであり、これが「大転換」でなかったという言い訳は誰にも許さない。転換の以前にも、もちろんそのようなことを言っていた人は少なからずいたし、それをわざわざ言わない人も、その可能性は十分に認識していただろう。ただ、これらのトピックについての物語を語るときの基本的姿勢として、そのような観念を軸に持ってくるのは主流ではなかった、ということだ。またそれを言う人は、「主流に挑戦する」というアグレッシブな態度をとることを迫られていた。

 パラサイトがそのホストの種の進化の仕方に影響を与えているという観念は別に新しいものではない。しかし、本書でもいくつか言及されている、パラサイトの戦略が、ホストの種の環境の行動生態学そのものの重要なパラメータであるという発想に基づく研究は革新的なものだろう。ここでは、従来の「パラサイトとホストの、両種のインタラクションを通しての共進化」という枠組みから一歩進んで、パラサイトがホストの行動を自らの遺伝子の表現型とし、その表現型が「ホスト」の生態環境の中で選択されるという枠組みが採用される。こういう新しい枠組みが出てくると、必然的にその枠組み内での研究がたくさん行われ、肯定的な証拠が集まってくる(それが「正しい」かどうかは別問題)。それが臨界質量に達したところで、「利己的な遺伝子」以来の衝撃的な転換が起こるに違いない。まあ20年後ぐらいを楽しみにしていよう。

 またそうなったときに、『心の病気はなぜ起こるか』で解説されていたような、人間の精神的働きの物理的説明と、社会生物学・行動生態学・進化心理学の人間への適用が組み合わさって、「人間の本性」はさらに根源的な問いをつきつけられることになる。あんまり追求するとSF小説みたいになってしまうが、たとえば「風邪をひいたんで、ちょっと頭がぼーっとしている」とか「下痢をしたんで、体がだるい」というような状態が、人間の本性や意識にとってどういう意味を持つのかということだ。まあ「大した意味はない」という結論になると思うけど、問いが突きつけられることは間違いない。

2001/4/19

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