論争・中流崩壊

「中央公論」編集部編 / 中央公論新社 / 01/03/25

★★★

まあ結論は出ないということで

 中央公論新社の新しい新書シリーズ「中公新書ラクレ」の第一巻。1998年以降に行われた、「中流階級の崩壊」というテーマの論争の代表的な文章を集めたもの。議論の流れを一瞥できる、いい企画だと思う。

 代表的な論者の手による、合計19編のエッセイが収録されている。軸となる実証的研究は2つ。所得分配の平等度(ジニ係数)という観点から不平等の広がりを論じる橘木俊詔の論点は、統計データの扱い方の微調整を加えてもなお妥当ということのようだ。一方、『不平等社会日本』で佐藤俊樹が展開している「社会階層の固定」の議論については、『日本の階層システム1』の編者でもある原純輔が冷静な論評を加え、同じSSM調査をベースにした他の研究で、佐藤の結論が再現できていないことを紹介している。その他、金子勝の文章は『日本再生論』に収録されていたものと重なっているようだ(未確認)。また編者による総括には、このコンテキストの中での議論の1つとして、斎藤貴男の『機会不平等』が言及されている。

 SSM調査をベースにした議論に対して私が抱いた違和感については、『不平等社会日本』と『日本の階層システム1』の項を参照されたい。本書に収録されているエッセイで、佐藤俊樹は事実上、W雇上の世代間再生産の仮説の敗北宣言をしているように見える。今後、このトレンドが続くかどうかは2005年のSSM調査を待たなくてはわからないが、仮にその時点でこのトレンドが出てきても、それは中流階級の崩壊というよりも、W雇上というカテゴリの定義が実情にそぐわなくなったという風に理解した方がよいような気がする。なお、金子勝の視点の鋭さを再確認した。「地道でない議論」を展開している人たちのなかでは飛び抜けて面白い。

 この問題についての今後の推移の予想。「中流階級の崩壊」は起こっていないという立場にはかなりの分があると思うが、実証的な議論とは関係のないところで、「中流階級の崩壊」は起こっているという見解が社会に広がるだろう。かつての「新中間階層」や「日本独自の終身雇用制」みたいな観念と同じようなものである。そしてそれに伴って人々の振る舞いに影響が出るだろう。そもそも日本のいわゆる「中流」には何も根拠がなかったわけだが、世の中で「中流階級の崩壊」が起こっているという観念が広がったら、それまで自分は中流だと思っていた人のうちの多くが、自分は中流から脱落して下層に移動したと感じるようになるはずだ。たとえ実質的な変化が何もなくても。

2001/4/19

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