2020年世界大戦

ロシア内戦勃発す/悪夢の日米大決戦

The war in 2020

ラルフ・ピーターズ / 二見書房 / 93/11/25

★★★

微妙な近未来を題材にした力作

 二見書房から『2020年』というタイトルで出版されたものを改題・文庫化したもの。著者は『レッド・アーミー侵攻作戦』を書いた現役の米国陸軍情報将校。

 2020年。全世界でアフリカ起源の伝染病が流行し、アメリカ合衆国が国力の衰えからモンロー主義に回帰しているなか、鎖国によって伝染病をシャットアウトし、ハイテク軍事国家として国力をつけた日本が、シベリアの地下資源を求め、ロシアの内戦につけこんでイスラム諸国と組んで反乱軍を支援する。これと米国・ロシアの同盟軍が西シベリア平原で衝突するという話。

 1991年に書かれたという事情を反映してか、ロシアは仲間、日本とイスラム諸国(イランとイラクと、ロシアの南の方のイスラム教系の国)は敵。メキシコはヤクザもの。米軍は軍縮のおかげで非常に苦労する。核は使用不可能になっているが、それをいいことに日本が恐ろしい新型兵器をひそかに開発し、使用する。などなど、きわめて人種差別的な姿勢をあっけらかんと打ち出している本なのだが、困ったことにこれはかなりよく書けている本である。

 『全面戦争』で、アメリカ人が中国人を虐殺する場面の描き方の興味深さに触れた。基本的に戦争小説は主人公が勝たなければ話にならないわけだが、戦争に勝つためには一般に大量虐殺をしなければならない。これをどうやって描くかは難しい(主人公の側が虐殺される、というのはむしろ簡単に書ける)。『全面戦争』では大量虐殺される側の中国人に重要なキャラクターを置き、またわけもわからず大量虐殺を行わなければならない立場に追い込まれるアメリカ人歩兵に魅力的なキャラクターを置いて、この問題に対する微妙な、しかしきわめて物語的に正統的ともいえる解決方法を提示していた。この『2020年・世界大戦』では、基本的に罠にはまっているのだが(要するにアメリカが行う虐殺はクリーンに描かれ、敵が行う虐殺は悲惨なものとして描かれる)、最後の方に、悪役である日本人が、基地周辺のイスラム教徒の反発を受けて攻撃される場面があって、これが興味深い。この際に日本人側は基地に押し寄せてくる現地人を虐殺するのだが、この部分に限って単純な"good guys bad guys"の構図が崩れている。まあこれも、著者の心の中でイスラム教徒が日本人よりもさらに低い位置に置かれていると解釈することが可能なのだが、いずれにせよ大量虐殺が物語の中で教条主義的な感情を生み出すためのツールとして使われていない、という場面である。

 ちなみに著者の人種差別的姿勢について。この本の主人公は白人であるが、その下についている重要な部下3人が、それぞれ黒人、ヒスパニック、ユダヤ人であり、それぞれについて自らの人種(というか民族的出自)について意識的であり、自分がアメリカ人でよかったな、アメリカ陸軍はいいところだなあ、と思うのである。つまりやっかいなことに著者は人種問題についてはそこそこ配慮しているのだ(アジア系アメリカ人は出てこない)。だからこれは人種差別的というよりも、国籍差別的といった方が正しい。ロシア人はかなり好意的に描かれる。イスラム教徒と日本人は人間の扱いをされていないといってもよく、日本人は南アフリカ共和国の傭兵を雇っているというだめ押しまでがある。

 このような問題があるにしても、この本にはいくつか美しいエピソードが出てくる。(good guys側の)登場人物たちがそれぞれ持っている男女関係と、主人公の司令官とその部下たちの間の結びつきが非常にじめじめした感じに描かれているのだが、それがいやみにならず、むしろ美しくて感動的なのだ。戦場に出ているロシア人将校とモスクワに残された妻のエピソードや、主人公が日本の新型兵器にやられた部下を介抱する場面など、不覚にも心をずいぶんと動かされた。この著者はメロドラマを書く才能があるに違いない。

1998/6/14

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