栃木リンチ殺人事件

警察はなぜ動かなかったのか

黒木昭雄 / 草思社 / 01/04/26

★★★★★

ちょっとびっくり

 1999年に起こった、栃木県のリンチ殺人事件に関するルポルタージュ。記録をもとに事件の経緯を再構成する第1部と、警察が適切な対応をとれなかった理由を探る第2部から構成されている。私は事件の内容をほとんど知らなかったので、本書の第1部を読んだだけでかなり驚いた。また、第2部で提示されている仮説がどれほど一般に受け入れられているのかを知らないが、これが本当のことなんだったら大スキャンダルである。なお、被害者の両親の手記が、同じ日付でやはり草思社から出版されている(『わが子、正和よ』)。

 著者は元警察官のジャーナリストで、エピローグには「もの書きの専門家でもない私が、こうして一冊のドキュメントを仕あげることができたのも、いまは亡き須藤正和君の見えない力のおかげだと思っている」なんて書いているけれども、本書を読んでいて感じたのは、ノンフィクション・ライターとしての能力の高さだった。再構成の部分は視点のとりかたがしっかりしているし、第2部はきわめて論理的な構成になっている。いまの日本じゃトップクラスでしょう。『日本の警察がダメになった50の事情』の久保博司とともに注目すべき人である。

 なお、著者が提示しているのは、被害者と、加害者の1人が勤務していた日産自動車の栃木工場がかなり初期の段階から事件の性質を見抜いており、スキャンダルとなるのを怖れて、栃木県警に対して積極的な捜査をしないよう圧力をかけていたという説である。この事件における県警の動きの鈍さは、ほぼ同じ時期に起こった桶川ストーカー殺人事件(『遺言』を参照)と同じように、警察の官僚的な気風が原因であると一般には思われているらしいが、本書は、企業の体質と、企業と県警の密着性に問題の根幹があるのだと指摘している。著者が元警察官であるがゆえのバイアスもあるかもしれないが、本書の記述を読む限り、警察の態度にはたしかに怠慢では片づけられない不自然さがある。

2001/5/10

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