わが子、正和よ

栃木リンチ殺人事件被害者両親の手記

須藤光男、須藤洋子 / 草思社 / 01/04/26

★★

複雑な気持ち

 『栃木リンチ殺人事件』で扱われていた殺人事件の被害者の両親による手記。この2冊の本は、同じ出版社から同じ日付で発行されている。実に巧妙なマーケティング戦略だが、事件の悲惨さを考えると、この商魂のたくましさが何やら厭わしく思えてくる。

 基本的に、ごく普通の床屋さんが書いた本で、松本サリン事件の河野義行(『「疑惑」は晴れようとも』『妻よ!』)のようなインテリではない。それだけに痛ましいのである。この事件の経緯を知った人の誰もが、なぜ被害者は逃げださなかったのかという疑問を抱くと思う。そして本書を読むと、著者の両親の意図に(おそらく)反して、被害者は「社会的に未熟」だったという結論にたどりつかざるをえないと思う。もちろん被害者が本当にどうだったのかは知りようもないことだが、両親が息子に注いだ愛情がそのまま反映された本書の記述のせいで、読者はそのように理解することを強制されてしまう、という力学がここでは働いている。そして著者らはそのような力学が働くことをおそらく認識していない。出版社はそのことを十分にわかっていたはずだ。

 この事件に客観的な関心がある人にとっては、『栃木リンチ殺人事件』を読むだけで十分だと思う。ただ、著者らが最後に述べているように、この事件の被害者は刑事裁判では十分に救済されておらず、著者らは民事訴訟を通して追究を続けるつもりらしいので、そのためのカンパとして本書を買う意義はあるだろう。特に『栃木リンチ殺人事件』が示唆するような経緯があったのだとしたら、著者らは栃木県警と日産自動車を訴えるべき(そして勝つべき)だと思う。

 でも忘れてはならないのは、本書の記述が、被害者の両親から見た被害者の像に過ぎないということである。本人が異議を唱えたくなるような記述もあるかもしれないのだが、死んでしまったので反論はできない。『栃木リンチ殺人事件』の著者は、この聖域に入らない慎重さを持ち合わせていたが、殺人の被害者の両親に「聖域に入るな」とはちょっと言いがたいわけで、複雑な気持ちになった。

2001/5/17

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