指紋捜査官

「1cm2の宇宙」を解き明かした男の1万日

堀ノ内雅一 / 角川書店 / 01/04/30

★★★★

興味深いエピソード

 「指紋の神様」と呼ばれた塚本宇兵(前警視庁鑑識研究所長)という人が関わった事件を中心に、日本の指紋技術を紹介するノンフィクション。

 「見てきたようなことを書く」典型的な日本製ノンフィクションで読みづらいが、塚本宇兵という人のキャリアが科学的捜査の転換期にちょうど重なっているため、個々のエピソードはとても興味深い。「3億円事件」、「よど号ハイジャック事件」、「オウム事件」などの有名なケースで、指紋技術がどのように使われたかというようなことが書かれている。日本の警察は科学的捜査の点でアメリカから大きく遅れをとっているという印象があるけれども、本書のトーンは基本的に科学的捜査へのトレンドが日本にも「ある」というものだ。その背後には、司法制度全体の、自白重視のアプローチから物証重視のアプローチへの移行という事情があるとされている(外から見ていると、現時点でも不十分なように見えるとしても)。

 なお、「序章」ではハイテク機器を利用した「第二次指紋革命」への言及がある。日本でいったんこういうことをやり始めたら、進展が早く、精度も高くなるんじゃないだろうか。アメリカ製の警察小説では、FBIのラボに試料やデータを送っても、結果が返ってくるのが遅いという事情が、ストーリー上の仕掛けとしてよく使われる。また、現場の警察官のレベルでは物証重視が徹底されていても、それを分析するラボの質が低いせいで、いろんな問題が生じているという告発はよく行われる(逆に、フィクションで仕掛けとして使われることは少ないようだ)。『FBI神話の崩壊』はFBIの犯罪科学研究所の職員による内部告発だった。最近の話題としては、オクラホマシティの連邦ビルの爆破事件で有罪となったティモシー・マクヴェイの死刑執行が、検察側の手続き上のミスのせいで延期された。これに関連して、鑑識の質の低さにスポットライトが当てられている。

2001/5/24

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