先住民族の「近代史」

植民地主義を超えるために

上村英明 / 平凡社 / 01/04/25

★★★

興味深い話題だが、バイアスが強すぎるか

 紹介文から引用すると、「本書は、先住民族の歴史や文化を、そうした「近代化」によって「失われた過去」の回復、あるいは行き詰まった「近代」を超えるユートピアとしてではなく、逆に近代国家のただ中でこそ、先住民族が動員され利用された経緯を明らかにする。近代国民国家こそが、先住民族問題を「課題」として生み出したという新たなテーゼを提示し、先住民族研究のパラダイムを切り拓く画期的な労作」。このような観点から、近代オリンピックと先住民族、アイヌ民族と極地探検、北海道と沖縄の植民地化、環境レイシズムなどのトピックを手際よく解説している本である。

 著者は先住民族問題関連のアクティビストなので、政治的バイアスがかなり強く、かえって主張の信頼性を損なっているように思われる。たとえば、いまのオリンピックの陸上競技でアフリカ系アメリカ人が大活躍していることをどう評価するのか(アフリカ系アフリカ人は「先住民族」ではないが)、北海道と沖縄を「日本」が植民地化できなかった場合のシミュレーションはしないのか、などの疑問が生じたのだけれども、そういう議論の可能性にはいっさい目を向けず、「先住民族は良い、近代国家は悪い」というテーゼで一点突破をはかっているように見える。最終的には、このように先住民族の問題を論じられるのは、ひとえに、現代日本人の祖先が頑張って近代国家としての日本を成立させてくれたおかげです、というようなはなはだ反動的な感想を読者に抱かせてしまうとも限らない、ような気がする。

 著者の政治的バイアスは、「はじめに」から引用すれば「自己の民族的アイデンティティを権利として保障する「多民族社会」実現」に向いているようなのだが、そのような「多民族社会」がどのようなものになりうるのかということを、ポジティブな視線で提示しえていないということなんだろうと思う。現実問題として、20世紀末の世界では、多発する民族紛争の悲惨さが大きく取り上げられ、「多民族社会」にはむしろネガティブなイメージがまとわりついた。そこからの揺り戻しとして、「日本は単一民族国家である」というような言い方を、ポジティブな言い方として支持するべきであるというような状況が近いうちにやってくるかもしれない。これに対抗できるかどうかが問題である。

2001/5/24

TRCの該当ページへ

検索ページへ 目次へ 前へ 次へ