真実の囁き

Lone Star

John Sayles / Chris Cooper,Elizabeth Pena,Kris Kristofferson,Matthew McConaughey / 1996

★★★★★

一筋縄では行かない

 ジョン・セイルズの監督・脚本作品。テキサス州のメキシコ国境近くの町を舞台にした、「40年前の犯罪がいまに蘇る」タイプのサスペンスだが、ジョン・セイルズだから一筋縄ではいかない。ところで私はスティーヴン・ハンターの小説『ブラック・ライト』の項で、次のように書いた。

主人公のスワイガーの父親は、1950年代のアメリカ南部の警察官で、職務中に不審な死を遂げる。この謎を40年後に解明するというストーリー。これぐらいの時期のアメリカ南部で法執行官をしている白人が魅力的に描かれる小説を、最近になって数冊読んだ気がする。黒人差別が当たり前の時代に生きた、第二次世界大戦から帰ってきて間もなく、まだ古い価値観を何の疑問もなく持ちえていたまっとうな男、である。これは小説の舞台として大きな鉱脈なのではないだろうか。

 この映画では、過去の謎を解こうとする主人公(クリス・クーパー)の父親(マシュー・マコノヒー)は朝鮮戦争帰りである。また、テキサス州南部の話なので、黒人差別だけでなくヒスパニック差別も厳しい。父親は保安官として名を成して死んだ。そういう小さい違いはあるが、この映画は、上に書いたような「大きな鉱脈」を掘り当て、私の想像をはるかに超えたところまで掘り進んで豊かな世界を作り上げた大傑作だった。プロットだけを取り出してもそこらのエンタテインメント小説の最高クラスに入るが、映画としての豊かさも尋常ではない。これはもう天才の作った大傑作と言うしかない。

 ストーリーに細かく触れることはしないが、物語の進行はほんとに一筋縄では行かない。いったん紋切り型を提出して、それを裏切ると見せて、それをさらに裏切るというかなり凝ったプロットが、40年前と現在を巧妙に行き来する映像で徐々に明らかにされていく。最後に提示されるのは幸せな世界で、しかもそれを平板な「政治的な正しさ」に回収しないところがジョン・セイルズの頭のいいところだ。

 名声が高い、しかし家庭内では抑圧的だった父親の後を継いで田舎町の保安官をしている主人公を演じるクリス・クーパーはとても良い。(『モンタナの風に抱かれて』『ブレストマン/豊胸外科医』『真実の瞬間(とき)』『アメリカン・ビューティー』など)。その父親を演じるマシュー・マコノヒー(『コンタクト』『ボーイズ・オン・ザ・サイド』)は、短い出演ながらも、強い印象を残している。この映画が巧妙なのは、息子のクリス・クーパーと父親のマシュー・マコノヒーの年齢が逆転していることだ。保安官となった後の父親は、高校生時代の息子を恋人から引き離す短いシークエンスを除き、息子と町の人々の口を通してのみ語られ、どちらから出る言葉が彼の本当の姿を反映しているのかがわからないということがサスペンスの1本の線を作っているのだが、そのサスペンスのきっかけとなる事件の前の、不敵で自信に満ちあふれたマコノヒーの若い姿と、悩まざるをえないクーパーのいくぶんくたびれた姿が、40年という時を隔てているという時代の感覚を巧妙に作っているのである。

 なお、突拍子もない比喩かもしれないが、クリス・クーパーは成田三樹夫のような色気を持っている。私は男であり、ホモセクシャルではないが、この人はセクシーだと思う。この映画では、とりわけ、背中を丸めて座っているところとか、どこか落ち着かずに立っている姿などに感激した。

 クリス・クーパーの恋人を演じるのは、エリザベス・ペーニャ(『セカンド・インパクト』『ラッシュ・アワー』)。この2人のロマンスの進展は、普通のロマンス映画としても上々で実に美しいのだが、最後の決着のつけかたはもう「感動」というしかない。

 40年前の悪人の保安官を演じるクリス・クリストファーソン(『ペイバック』『ブレイド』『沈黙の断崖』)は、その悪さに説得力がありすぎて怖いぐらいだ。『ペイバック』とか『沈黙の断崖』の「悪者」がほんとにチャチに見える。その他、この映画のあらゆる登場人物たちが、それぞれに強い印象を残す素晴らしいエピソードを与えられている。それらのエピソードの絡み方もまた信じがたいほど上手。いちいち挙げていたらキリがない。

 いや本当に美しい映画だった。

2000/6/17

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