パッション・フィッシュ

Passion Fish

John Sayles / Mary McDonnell,Alfre Woodard,David Strathairn / 1992

★★★★★

素晴らしい

 ジョン・セイルズ監督・脚本・編集作品。『真実の囁き』に続いて星5つというのは、完全に罠にはまっているような気もするんだが、良い映画なんだから仕方がない。この映画が作られたのは1992年だが、日本公開は1999年になって行われたようだ。1992年度のアカデミー賞の主演女優賞と脚本賞にノミネートされている。

 交通事故で下半身が麻痺した女優のメアリー・マクドネルのところに、看護婦のアルフレ・ウッダード(『愛が微笑む時』)がやってくる。この2人の交流を、ルイジアナ州の風景の中で描く回復の物語。ルイジアナ州を舞台にした映画としては、他に『マグノリアの花たち』『セックスの義務と権利』を取り上げているが、どちらも名作である。メアリー・マクドネルが心を寄せる男性をデヴィッド・ストラザーン(『サイモン・バーチ』『フォー・エヴァー・ライフ/旅立ちの朝』)が演じている。

 この3人が文句のつけようがないぐらい素晴らしいのはもちろんなのだが、『真実の囁き』と同様に、小さいキャストの一人一人が良い。なんでこんなことが可能なんだろうか。たとえば、蟄居しているメアリー・マクドネルのところに、昔の女優仲間3人が訪れるシーンがあるのだが、この3人が完璧に描き分けられていて、それぞれに見所が作られていて、しかもそれらすべてが素晴らしいのだ。特に、女優の1人が林の中で詩を口ずさむシークエンスにやられた。あんなものに感動できるなんて。

 映画のタイプの違いのせいで、『真実の囁き』の方がサスペンスフルではあるが、こちらは正統的かつ典型的なテーマに真っ向から挑んでいるだけに、それが成功しているのを見てしまったときの感動が深い。半身不随となって落ち込んでいる元女優のところに、黒人の看護婦がやってきて、徐々に心を開き合い、友情が芽生えたという話が「面白い」というのは並み大抵のことではないのだ。似たような路線の『母の眠り』『不機嫌な赤いバラ』『微笑みをもう一度』『アット・ファースト・サイト/あなたが見えなくても』『グッドナイト・ムーン』『モンタナの風に抱かれて』などを考えると、これが成功していることが奇跡のように思えてくる。特に、間を置かずに見た『母の眠り』と比較すると、こういう典型的なテーマを扱う映画では、役者に芸達者な人を持ってくることが十分条件ではないということがよくわかる。

 この映画の、特に脚本の面で見事なところは、主人公2人の過去とか細かい事情が徐々に明かされているメカニズムの役割を、この2人を訪れる知人たちが持たされているということだ。最初のうち、2人は互いに相手のことをよく知らないし、観客も2人の現状は知っていても過去を知らない。やがて、2人が住んでいる家に知人たちがぽつりぽつりと訪れ、そのたびに1人の登場人物の過去の事情を、映画の中の相手方と観客が同時に知っていく。この構造は『真実の囁き』と同じで、『真実の囁き』と比べると明かされる秘密はふつうなんだけれども、映画としてよくできているので、明かされる秘密がふつうであるということが感動を深くするという仕組みになっている。この感触は『スウィート・ヒアアフター』と似たところがある。『スウィート・ヒアアフター』は、スクールバスの事故のせいで、小さな町の秘密が徐々に明かされていくというストーリーだったが、明かされる秘密は決して異常なものではなく、人々は単に普通の日常生活を送っていただけだった。だからこそ、観客は映画のなかで描写される日常生活をcherishできるのである。恐ろしい陰謀が進行していたという話になると、謎解き映画になってしまう。

2000/8/6

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