悪魔を憐れむ歌

Fallen

Gregory Hoblit / Denzel Washington,John Goodman,Donald Sutherland,Robert Joy / 1998

★★★★★

これは怖い

 監督のグレゴリー・ホブリットは『真実の行方』の人。これが本編の2作目である。『真実の行方』はフロックではなかった。この映画はホラー映画の傑作である。

 デンゼル・ワシントンが連続殺人を追う刑事。この人は『フィラデルフィア』あたりから鬱陶しい役に力一杯ぶつかって、かえって事態を悪くしてしまう傾向があるのだが、ときどき『バーチュオシティ』のような「何でこんなものに!」という感じのものにも出ていて、そういうときは好ましく感じる。本作は『バーチュオシティ』のようなダメな映画ではないが、ちょうどいい感じに肩の力が抜けている。パートナーにジョン・グッドマン(『救命士』)。この映画のジョン・グッドマンは物凄くいい。演技のタイプは違うが、『バートン・フィンク』に匹敵するぐらいの鮮烈な印象を、ただ警察署の机の前に座っているだけで醸し出すのである。驚くなかれ、ドナルド・サザーランド(『ヴァイラス』『フリー・マネー』)までが良い! 良いドナルド・サザーランドなんて何年ぶりだろうか。ヒロインにエンベス・デイヴィッツ(『相続人』のヒロイン)。なお、『レザレクション』の殺人鬼を演じていたロバート・ジョイが、この映画でも殺人者の役で鮮烈な印象を残している。この人の顔はとうぶん忘れることがなさそうな気がする。

 この映画は連続殺人捜査ものだが、オカルト・ホラーの要素が入っている。あまりobviousな例を挙げるとまずいので、『ウルフェン』のようなニュアンスがあると言っておこうか。あの映画/小説も、警官が日常に潜む異常なものと遭遇したときの恐怖を描いていた。本作は『ウルフェン』ほどの哲学的な深みはないが、映画として存分に恐がらせてくれる。中盤以降には、きわめてクレバーで怖いシークエンスがいくつも出てくるが、そこまで行かなくても、冒頭の死刑囚との面談とそれに続く死刑執行場面だけでも、これまでに見たどの死刑執行場面よりも恐ろしい(あの体のくねらせ方は何だ!)。

 この映画の凄さは、こういったオカルト/ホラー的な要素のほとんどが、日常的な光景の中で描かれるところにある。異常な照明やカメラワークによって異常さを演出することはしない、というはっきりした意図があるように思われる。もう1つ。この映画では、観客に与えられる情報がいくつかの面で過度に欠落している。普通だったらもうちょっと説明つけるだろう、経過を描くだろうというようなところをばっさり切っており、しかもそれが直接サスペンスに結びつくわけでもないので、解決されない問題がいくつか最後まで残っている。理屈で詰めることができない怖さを、映画自体が持っているとでもいうべきか。

 なお、IMDBのユーザー・コメントでは、映画の終わり方に意外性がないという不満が語られているが、これは話が逆で、主人公が破局に向かって突き進んでいくのを見せられることの怖さが意図されているんじゃないかと思う。というのも、この映画では、まるでエラリー・クイーンの小説のように、エンディングに至る一連の流れを推理するための手がかりがちゃんと提示されているのである。『真実の行方』は、この映画ほど明示的な手がかりは与えられていなかったが、基本的に、観客にはわかるが登場人物にはわからない破滅への道、というモチーフは共通している。

2000/10/25

 再見して、本作が傑作であることを再確認した。なお、『真実の行方』の項も参照。

2003/3/30

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