アイズ・ワイド・シャット

Eyes Wide Shut

Stanley Kubrick / Tom Cruise,Nicole Kidman,Madison Eginton,Sydney Pollack,Todd Field / 1999

★★★★

奇麗だが、なんだこりゃ

 スタンリー・キューブリック監督の遺作。トム・クルーズとニコール・キッドマン(『ピースメーカー』『プラクティカル・マジック』)が夫婦で、トム・クルーズが不思議な体験をする。少年が暗い森の中に足を踏み入れたら、恐い光景に出くわしましたというタイプのあまりひねりのないストーリーをもったいぶって語っている。

 これにキューブリックという名前が付いておらず、映像が恐ろしく奇麗でなければ、誰も顧みなかったんじゃないかと思うほど凡庸な話だ。で、キューブリックという名前が付いているからつい深読みしてしまって、これは凡庸なものを仰々しく撮るというイタズラなんだと考えてしまうわけである。もちろん私は深読みしてしまったが、老いたキューブリックが「スキャンダラス」という観念において世間とずれてしまっていたという可能性もつねに残されている。死んじゃったから真相は誰にもわからないわけだが、もちろん生きていても明らかにはしなかっただろう。

 キューブリックという名前だけでなく、私は映画の製作プロセスについていろいろな知識を得てしまった。たとえば、シドニー・ポラックが演じている役がもともとハーヴェイ・カイテルの役だった、という経緯はその1つである。そういう知識を得てしまうと、この映画の中でポラックとポラックが出ている場面は浮いているようで、この映画はもしかしたら妥協の産物なんじゃないかとも思えてくるのだ。もしかしたらキューブリックは、他の面でも本当はもっと改善したかったのではないか、と。

 まったく違うタイプの映画ではあるけれども、クルーズが夜のNYの街を歩くシーンで、ジェリー・シャッツバーグの『NYストリート・スマート』(1987)という映画を思い出した。あの映画ではクリストファー・リーヴが夜の街を別の理由からさまよっていた。

 『L.A.救命士』で鮮烈な印象を残したトッド・フィールドが、この映画では旧友のピアニストを演じている。

 159分という上映時間のあいだ、まったく退屈を感じずに見ていられる完成度の高さと、サスペンスと内容のなさ。奇跡的な組み合わせである。ちなみに上に書いた「深読み」は、トム・クルーズとニコール・キッドマンという、あまり演技派とは言いがたい役者を起用することによって、あえてメインのストーリーの説得力をなくしている洋ピンのパロディ、というものなんだけど、やっぱり勘違いだろうかね。

DVDメモ。日本版。

予告編。インタビュー。

 インタビューには、トム・クルーズ、ニコール・キッドマン、そしてなぜかスティーヴン・スピルバーグが登場する。特筆すべきなのは、クルーズとキッドマンの「汚さ」。特にキッドマンの顔の汚さは驚くべきもので、本編と続けて見ると「映像の魔術」という言葉が脳裏に浮かぶ。いずれも内容はいかに自分が生前のキューブリックと親しかったかを自慢するもの。

2000/11/26

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