ダンス・ウィズ・ミー

Dance With Me

Randa Haines / Vanessa L. Williams,Chayanne,Kris Kristofferson,Jane Krakowski / 1998

★★★★★

素晴らしいダンス映画

 ランダ・ヘインズ監督作品。この人は『愛は静けさの中に』(1986)と『ドクター』(1991)の後に、『潮風とベーコンサンドとヘミングウェイ』(1993)(未見)なるものを作っているようだ。私は『愛は静けさの中に』がとても好きだが、『ドクター』はちょっときつかった。

 本作はダンス映画。『ダンシング・ヒーロー』とかなり似ているプロットで、ボールルーム・ダンスのコンペティションを目指している主人公が、本物のラテン人である異性を通して本物のラテンのダンスに目覚め、同時にその人と恋に落ちるという骨組みが共通している。ただし、こちらでは女性のヴァネッサ・L・ウィリアムズの方がボールルーム・ダンス指向であり、男性のチャヤンの方がラテンのダンスの名手。ちなみにアステア=ロジャーズの『踊らん哉』"Shall We Dance"では、アステアがクラシカル・バレーのダンサーで、ロジャーズがタップ・ダンサー/アメリカ流エンタテイナーだった。

 緻密な計算と正しい映画製作態度を持つ、『ダンシング・ヒーロー』よりもはるかに出来の良い映画だった。『ダンシング・ヒーロー』を反面教師として、この手の映画でやってはならないことを列挙し、1つ1つ潰していったという経緯があったとしてもおかしくない。計算が緻密にすぎることと、後半のドラマの進行がいくぶん齟齬をきたすという欠点はあるが、それを差し引いてもダンス映画の傑作である。

 ヴァネッサ・L・ウィリアムズの踊りはかなり本格的だし、プエルトリコの大スターであるらしいチャヤンの踊りは、プロのダンサーであるウィリアムズが魅力を感じてもおかしくない良いものだった。しかし何よりも素晴らしいのは、この2人の踊るときの表情だった。ダンスがほとんど苦行のように描かれていた『ダンシング・ヒーロー』とは違って、この映画の、ダンスは楽しいものであるというメッセージがはっきりと伝わってくるし、それだけでもこの映画は大成功しているといっていいと思う。ちなみに私は、ダンサーとしてのフレッド・アステアとジーン・ケリーの最も大きな違いは、アステアのパートナーは楽しそうなのに対し、ケリーのパートナーは顔が強張って見えることだと思っている。

 この映画のクライマックスであるダンス大会には、上映時間の2時間強のうちの40分近くが割かれている。このシーンには、悪魔的とも思える配慮がいくつかある。たとえば、この大会では、ヴァネッサ・L・ウィリアムズとチャヤンは一緒に踊らない。ウィリアムズは飽くまでもプロの競技者としてプロの踊りを見せるし、チャヤンはアマチュアとして別の女性(ジェーン・クラコウスキー。名演!)とクラシカルな雰囲気を漂わせる踊りを踊る。そして、プロの競技者の踊りも、クラコウスキーの踊りも、チャヤンがクラブなどで見せる踊りもすべてが肯定されるべきものとしてしっかりと撮られているところに、この映画の美点がある。このせいで、『ダンシング・ヒーロー』にあった脚本上のいくつかの問題点が完全にクリアされているのである。

 ダンス・シーンの撮り方は、最近では稀なほど良心的で、『フラッシュダンス』以降のMTV的ぶつ切り編集は忌避されている。観客の表情とのカットバックがちょっと長すぎるのだが、まあ些細な傷で、ダンスをしっかりと見たいという欲求は十分に満たされた。ウィリアムズがラテン・ダンスに開眼する2度目のクラブのシーンのダイナミズムは、ダンス映画の歴史に残るだろう。とりわけ、ごみごみした集団の中で踊られる統一性のないダンスを、これだけ上手に撮っている例はちょっと他には思いつかない。

 ダンス教室のオーナーを演じるクリス・クリストファーソンは悪くはない。元気なおばさんを演じていたのはジョーン・プロウライト。なんとジョセフ・ロージーの『非情の時』"Time Without Pity" (1956)がデビュー作のようだ。

2001/1/7

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