パトリオット

Patriot,The

Roland Emmerich / Mel Gibson,Heath Ledger,Joely Richardson,Jason Isaacs,Chris Cooper,Tcheky Karyo,Skye McCole Bartusiak / 2000

これは大きな陰謀か

 ローランド・エメリッヒ監督のアメリカ独立戦争もの。『プライベート・ライアン』のロバート・ロダットが脚本を書いているので嫌な予感がしていたが、予想を上回るとんでもない内容だった。アメリカ版『プライド 運命の瞬間』というべき1990年代の保守化を体現する作品である(って私は『プライド 運命の瞬間』を見ていないのだが)。しかし、監督はドイツ人。主演のメル・ギブソンとヒース・レッジャーはオーストラリア人。ヒロインのジョエリー・リチャードソンと悪役のジェイソン・アイザックスは英国人(ジェイソン・アイザックスはもともと英国人将校の役なのでそれでいいのだが)、フランス人の役のチェッキー・カリョはトルコ人、製作にはドイツ資本が入っているなど、映画製作の観点から見るとやたらに「非アメリカ的」。

 私はローランド・エメリッヒはどうしようもないバカだと思っていたのだが、この映画を見て少しばかり疑念が生じてきた。もしかしたらこの人は、ポール・ヴァーホーヴェンよりもはるかに強力な、ヨーロッパ発の刺客なのではなかろうか。

 18世紀のマスケット銃を使った歩兵の戦闘をこれほどの規模で描いた映画は非常に珍しく、その場面だけでも見る価値はある(いままでだと『バリー・リンドン』とか)。これはたとえば、宇宙船がホワイトハウスを爆破するシーンの、将来にわたっての原型的な像となるであろうシーンだけでも『インデペンデンス・デイ』を見る価値があるとか、足の速いゴジラを見るだけでも『GODZILLA ゴジラ』を見る価値があるとか、大昔のTVシリーズのタイムトンネルの再現という点だけでも『スターゲイト』を見る価値があるとか、兵士たちがダムの壁を走りおりる冒頭のシーンだけでも『ユニバーサル・ソルジャー』を見る価値があるなどと言っているのと同じこと。

 メル・ギブソンのアクション・スターとしての力量は、英軍に対してゲリラ戦を仕掛ける場面で発揮されている。特に一番最初の、子供2人を引き連れて小隊1つを全滅させるところはよくできている。しかし問題は、このようなゲリラ戦の描写が、正規の歩兵の戦闘シーンの信憑性を失わせていることだ。この頃のマスケット銃は命中率が非常に低く、銃弾の装填に非常に手間がかかったからああいう戦闘方法が有効だったのであり、あのメル・ギブソンのような命中率の高さと素早さがあれば、現代的な戦術の方が有利に決まっている。

 ドラマはこれまでのエメリッヒの他の映画と同じレベル。数人の役者が映画に重厚感を与えており、それがかえって鬱陶しいという感じもしないでもない。ヒロインのジョエリー・リチャードソン(『イベント・ホライゾン』)、悪役のジェイソン・アイザックス(『アルマゲドン』、『イベント・ホライゾン』、『ソルジャー』)、フランス人軍人の役のチェッキー・カリョ、大陸軍の将校クリス・クーパーはいずれも頑張っているのだが、バカっぽいセリフを無理矢理言わされているという印象のみが残る。なお、口を利かない末娘のスーザンを演じている子役は、『サイダー・ハウス・ルール』で強い印象を残したSkye McCole Bartusiak。この人は今後すごいことになりそうな予感がする。

 なお念のため。黒人奴隷について人道的な見方をしていたのは、英国側であり、植民地側ではない。『U-571』はぎりぎりのところだったけれども、本作は修正主義とでも言うべき域に足を踏み入れているように思う。また、この映画にはアメリカン・インディアン(ネイティブ・アメリカン)が1人も出てこないが、それはメル・ギブソン演じる戦争の英雄のような人たちが、この前に虐殺するか、西の方へと追い出したからである。1960〜70年代ごろ、それまでの西部劇におけるアメリカン・インディアンの扱いに対する反省から「政治的に正しい」映画が氾濫したわけだが、本作はそれに対するおおっぴらな反動である。具体的にはおそらく、ネイティブ・アメリカンはすでにホットなイシューではなくなり、黒人(およびヒスパニック)の問題がのっぴきならない事態に陥っているということだと思う。

2001/4/13

 友人からの指摘があって追記。独立戦争時のアメリカ側(大陸軍)は、ゲリラ戦的な戦法を実際に使用するようになっていた。実際、この映画でメル・ギブソンが参加しているサウス・カロライナのミリシアは、英軍の補給線をゲリラ的に叩くことによって北への進軍を遅らせるという貢献をしたのだった。このような事情が、1990年代に入って活発化したアメリカのミリシアの歴史的背景としてある。また、憲法で保証されている「銃を持つ権利」は、もともとは(必ずしもミリシアのことではないが)個々の州の軍隊が武装する権利を保証するものであった。つまり軍備の中央集権化を嫌い、合衆国を構成する個々の州の権利を確保するためのものだったとされる。というわけでこの映画は、前にも書いたように製作陣が変な構成になっていなければ、全米ライフル協会(NRA)のプロパガンダ映画として受け取られかねないような内容なのである。

2001/4/25

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