ブラッダ

They Nest

Ellory Elkayem / Thomas Calabro,Dean Stockwell,John Savage,Kristen Dalton / 2000

★★★★★

素晴らしい

 監督のエロリー・エルケイムはニュージーランド出身の人。1997年に"Larger Than Life"という短篇がある。本作は、小型動物を襲うゴキブリに良く似たアフリカ出身の虫が、アメリカの小さな島に住みついて人間を襲うという昆虫パニックもの。低予算B級映画の大傑作。

 感動して、ビデオを3回見た。演出、構図、照明、編集、脚本のすべてのレベルできめ細かな配慮がなされている映画。本作の一番の特徴は、この手のクリーチャーもの/パニックものには珍しく、観客を映画的なテクニックで怖がらせるという仕事に本気で取り組んでいることにある。虫嫌いの人ならば卒倒しそうなシーンもいくつかあるけれども、映画のほとんどの部分は「古典的ホラー映画」といってもいい。

 プロダクションのレベルが、この手の映画には稀なほど高い。たとえば冒頭には、トマス・キャラブロ演じる主人公の医者が手術をするシーンがあるが、この場面の作りはプロパーの医者映画に負けないほどクオリティが高い。ドラマの多くの部分が進行する酒場や、ヒロインのクリスティン・ダルトンが経営している雑貨店の室内照明も安定している。その他、移動するカメラ(特に前への移動)が印象的に使われているし、登場人物の捉え方と構図にときどきはっとするものがある。島の電気技師を演じるジョン・サヴェージがフェリーの上で主人公と初めて出会うときの2人の顔の写り方などはその典型だ。主人公が住んでいる家も、光のバリエーションが豊富で、存分に遊んでいるという感じがする。

 何よりも気に入ったのは、映画全体を流れる一種の上品さ(decency)。主人公格のトマス・キャラブロとクリスティン・ダルトンは実に好感の持てる人として描かれているし、悪い奴として出てきたジョン・サヴェージの、ぎりぎりのところでのイメージの変化も面白い。さらに、ハムスターの恐怖を描くところのユーモアのセンスと、クライマックス直前でその結果を「見せない」ことの上品さも心地よい。まあ、悪者が出てきてそれが罰せられるのはお約束だから仕方がないとして、善玉がこのように上品に描かれているために、彼らに迫る危険の切迫感が増していることは間違いないし、くどくないさらっとした演出をしているために、この手の映画では珍しいほど、主人公格の人々に現実感が生じている。この点、違う印象を受ける人がいるかもしれない。つまり、お約束のパターンをリキを入れずに演じさせていて、キャラクターが平板になったと思う人もいるかもしれないが、悪玉があのようにくどく描かれていることからわかるように、善玉の方のさらっとした感じは意図的なものだと思われる。このあたりは、スティーヴン・ソマーズの『ザ・グリード』に似ている。あの映画は、私がこれまでに見たファムケ・ヤンセンの出演作の中で、彼女が最も美しい映画だった。サンドラ・ブロックが『スピード』と『デモリションマン』で良いのもこれと同じ。

 この虫をめぐる「科学的説明」の処理の仕方も実に見事だ。こういう映画では、科学者が出てきていろいろと説明するシーンが不可避なのだが、本作はそれを最小限にとどめている。インテリジェントでスマートな解決。

 本作の欠点は、やはりクライマックスからエンディングに向けての流れにある。私は「解決」自体には非常に好感を持ったが、エピローグの部分に少しがっかりした。これはなくてもいいと思ったのである。しかし再見するうちに、何かをここに入れなくてはならないとしたら、これは最良の解の1つであると納得した。

 以下、凡百のクリーチャー・パニック映画にあって、この映画にない要素。

 この映画の脚本は、明らかにこれらの要素を意識的に除外して作られている。まあ、予算がなくて撮れなかったってものもあるとは思うが。

2001/4/21

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