あなたに逢えるその日まで…

'Til There Was You

Scott Winant / Jeanne Tripplehorn,Dylan McDermott,Sarah Jessica Parker,Jennifer Aniston,Craig Bierko / 1997

★★★★

インテリジェントな作り

 監督のスコット・ウィナントはTVを中心に活動している人のようだ。本作は、映画評論家たちから散々にけなされ、IMDBでも4.9という低得点を獲得し、日本では劇場未公開となったロマンティック・コメディ。

 そういう事情をまったく知らないまま、ディラン・マクダーモットとジーン・トリプルホーンという最近気になっている2人が主演しているという理由でビデオを借りてきて見て、かなり感動してIMDBを見てみると4.9点。なおユーザー・コメントは、その平均点の低さとは裏腹にポジティブなレビューがかなり多い。一般的な評価が低いあまり、ポジティブな印象を抱いた人は、なんとかそれを主張しておきたいと思うんだろう。

 まあそういう映画だということだ。以下、ネタバレなのでご注意を。この映画は何の予備知識もなく見るべきだ。念のため、空改行をしておく。













 この映画はロマンティック・コメディの文法を裏切ることを目的としている映画であり、それゆえに、標準的なロマンティック・コメディの文法を期待している観客からは拒絶反応をくらうということなのだと思われる。後半のストーリーの軸となるアパートメントの物語は『ユー・ガット・メール』に似ているけれども、あの映画とこの映画を比較することで、この映画がいかに標準的文法から逸脱することを目指しているかがよくわかると思う。たとえば、あのアパートメントはジーン・トリプルホーンのアイデンティティのよって立つものではない。彼女自身がふらふらと生きるなかで、偶然に出会ったものに過ぎないのだ。また、あのアパートメントを巡る事件は、ディラン・マクダーモットとジーン・トリプルホーンの出会うきっかけにならない。2人の出会いは、物語が完全に終わるまで起こらないのである。そしてそうである以上、マクダーモットとトリプルホーンのそれぞれのロマンスは、現在の相手と「理想の相手」の比較を行った上で破綻するわけではなく、それぞれのロマンスがそれぞれの理由でもって破綻する。ただし、それらの理由には、互いの存在が、彼らには見えないところで影響を与えている。

 そのような構成であるため、マクダーモットとサラ・ジェシカ・ハーパーの間のロマンスは、サスペンスを高めるための当て馬ではなく、1つの独立したストーリーとして完結している。スポイルされた女性を演じるハーパーの攻撃的な演技とマクダーモットの受けの演技の組み合わせはそうとうレベルが高い。一方、ジーン・トリプルホーンは肉体的なコメディも含むコミカル路線を担当しているので、議員のクレイグ・ビアーコとのロマンスを含めてシリアスなものはまったくない。

 つまり、これはディラン・マクダーモットとジーン・トリプルホーンという2人の俳優を主役に据えたロマンティック・コメディなのだが、主演の男優と女優の間で「コメディっぽいロマンス」が展開するのではなく、マクダーモットがシリアスなロマンスを体験し、トリプルホーンがロマンスとはあまり関係ないコメディを演じるという奇妙な意味での「ロマンティック・コメディ」になっているのだ。これはいっそのこと実験映画と呼んだ方がいいような大胆な構成である。マクダーモットとトリプルホーンのカップルは、トリプルホーンの両親と同じ轍を踏むかもしれないと示唆するエンディングも、ホラー映画の蛇足の脅かしラストシーンを思わせて興味深い(深読み?)。

 上で述べたようにマクダーモットとハーパーの組み合わせは非常に良いが、特にこれはマクダーモットが最高のあり方をしている映画として記憶に残りそう。心に欠陥があることを感じさせるハンサムな無表情さ。一方、トリプルホーンの方はいくらなんでもやりすぎという感じがするが、どこか抜けてはいるが一所懸命に生きている若い女性として十分に説得力がある。

2001/4/25

IMDBの該当ページへ

検索ページへ 目次へ 前へ 次へ