アメリカン・プレジデント

American President,The

Rob Reiner / Michael Douglas,Annette Bening,Martin Sheen,Michael J.Fox,Anna Deavere Smith,Samantha Mathis,David Paymer,Richard Dreyfuss / 1995

★★★★★

やはりうまい

 ロブ・ライナー監督作品。「お勧め映画」の第1回で★4つを付けているお気に入りの作品だが、今回DVDを買って再見した。実は少し不安だったのだけれども、やはり良く出来ている映画だったので★5つにアップグレード。『ストーリー・オブ・ラブ』の項に書いたように、ロブ・ライナーはこの前の2本とこの後の2本で惨澹たる失敗作を撮っている。本作も完璧とはいえず、特に最後の方の話の終わらせ方が強引だが、古典的な映画の作り方をして成功しているという点で、実は彼の最高傑作と言えるかもしれないと思った。

 マイケル・ダグラス演じる合衆国大統領とアネット・ベニング演じる環境ロビイストのロマンス。『ア・フュー・グッドメン』(1992)の原作・脚本のアーロン・ソーキンが、再び脚本を書いている。2001年のいまになってこの映画を見ると、いろいろと複雑な思いがする。この映画では、マイケル・ダグラスの「ガールフレンド」であるアネット・ベニングがホワイトハウスで一夜を過ごしたことがスキャンダルになり、それが原因で大統領支持率が急激に低下する。この映画の製作時に大統領だったクリントンは、すでに大統領選挙のときにジェニファー・フラワーズやポーラ・ジョーンズなどの女性スキャンダルに見舞われており、明らかに民主党寄りであるこの映画の製作者や脚本家たちは、このことを踏まえて「大統領の執務能力とプライベートな問題は別物であるが、大衆はそれを認識しない」というストーリーを作った。ところが二期目のクリントン大統領を襲ったモニカ・ルインスキー・スキャンダルは、この映画の内容よりもはるかにインパクトの強いものだったにもかかわらず、大統領支持率は低下するどころか上昇し、この映画のリチャード・ドライファスと同じような戦略をとった共和党議員はかえってバッシングの対象となった。その間に、クリントン大統領は、この映画で描かれているような、アメリカに対して不服従な態度をとっている国家に対する「報復」と称する爆撃を、『ウワサの真相/ワグ・ザ・ドッグ』を思わせるような形で何度も行った。この映画で描かれるリベラルな政策、すなわち強硬な銃規制とCO2排出規制については十分な効果を上げたとはいえず、現在のブッシュ大統領はすでに方向転換を始めている。

 このように、2001年の時点から振り返って映画の内容を現実と照らし合わせると、これは民主党寄り知識人のあらゆる意味での敗北を象徴しているような映画ではある。

 そうではあっても、本作は1990年代アメリカのリベラル知識人の「おとぎ話」として構築された上質なロマンス映画であることには間違いがない。共和党員にとってはひどいプロパガンダ映画に見えるだろうけれども、この映画は二党間の対立軸がずれた遠い未来において高い評価を受けるだろうと思う。

 この映画の特に興味深い点は、主演の2人だけでなく、主な脇役たちが、それぞれのキャリアの中で最高レベルといってもいいほどの「人間的魅力」を振りまいているところにある。マイケル・ダグラスがこれほどチャーミングな映画は他にないし(特に90年代に入ってからは)、記者会見で行う演説は、映画の中で行われた演説のトップクラスに入るだろう。アネット・ベニングは映画自体の出来の悪さのせいで霞むことが多いのだが、本作は彼女の魅力を最大限に引き出し、デボラ・カーやグレース・ケリーなどと肩を並べるところにまで押し上げた。マーティン・シーンが素直な善玉で良いというのは珍しい。マイケル・J・フォックスが脇で良いというのは珍しい。敵役という設定のリチャード・ドライファスは、このところ主演映画がことごとくダメだが、脇役としてならば実に効果的。

 ロブ・ライナーは比較的に映像で「遊ぶ」タイプの人だが、この映画ではきわめて禁欲的な、古典的な照明と構図とカット割りを使っている。マイケル・ダグラスとアネット・ベニングが相対して会話をするシーンが非常に多いのだが、そのほとんどすべてで、顔をきれいに写すための照明をきっちりと当て、ごく平凡なバスト・ショットを切り返しでつなげるようにしている。ショットの切り替えのタイミングも、現在の標準からちょっとだけ遅らせているように思われる。つまりこの映画は、特に主演者2人の顔を美しく撮ることに専念している映画なのである。

 上に書いたように、マイケル・ダグラスが方針転換を行う演説からの展開が急すぎるため、それまでのストーリーの流れがゆっくりであるだけに、全体的な構成がいくぶん破綻して見える。これは、記者会見の直後にState of the Union address(「一般教書」と呼ばれるもの)があるという設定のためなのだが、好みとしてはアネット・ベニングにホワイトハウスにやって来させるのではなく、マイケル・ダグラスに彼女を追いかけさせてもらいたかった(ちなみに、アネット・ベニングがああも簡単に大統領執務室に入って来られるのは不自然だろうと思う)。

 ホワイトハウスとアネット・ベニングが議員の票を集めているのはなぜかとか、アネット・ベニングの仕事である「ロビイスト」とは何なのかとか(DVDの字幕では「広報担当」とかいう訳のわからない訳語になっていた)、マイケル・ダグラスとアネット・ベニングがソファーに座ってTVを見ていた場所はどこなのかといったことがわからない人には、『ワシントン政治を見る眼』という本がかっこうの参考書となるだろう。

2001/5/23

IMDBの該当ページへ

検索ページへ 目次へ 前へ 次へ