グリーン・デスティニー

Crouching Tiger, Hidden Dragon

Ang Lee / Chow Yun-fat,Michelle Yeoh,Zhang Ziyi / 2000

★★★★★

素晴らしいが哀しい

 アン・リー監督(『アイス・ストーム』)の伝奇アクション映画。チョウ・ユンファ、ミシェル・ヨー、チャン・ツィイーが主演。アクション監督にユエン・ウーピン。撮影監督のピーター・パオは『チャイルド・プレイ/チャッキーの花嫁』とか『ダブルチーム』の人、という紹介がミスリーディングに思える、美しい映画である。

 この映画のワイヤー・アクションが、これまでに見たことのないような素晴らしいものであることは認めざるをえない。私はワイヤー・アクションの、特に人間を宙に吊るやつが基本的に嫌いなのだが、この映画に限っていえば、スーパーマンを吊るさざるをえないのと同じ必然性があることがよくわかるし、できあがった映像は魔法のように美しい。映画の作り全般は、グローバルなマーケットに通用する「高品質のアメリカ娯楽映画」で、細かいところに不満がないわけではないにせよ、とにかく画期的な重要作品であることは間違いない。

 しかし、よく出来ていれば出来ているほど、深い哀しみを感じるのである。この映画は、アメリカのミュージカル映画でいえばロバート・ワイズの『ウエスト・サイド物語』(1961)とかジョージ・キューカーの『マイ・フェア・レディ』(1964)に相当すると私は思う。これらは50年代ハリウッド・ミュージカルに引導を渡した映画たちであり、この『グリーン・デスティニー』(そして『マトリックス』や『チャーリーズ・エンジェル』)は香港製のカンフー映画に引導を渡すことになるという予感が強くする。

 この映画のチョウ・ユンファの役が、ジェット・リーやジャッキー・チェンには務まらないということは端から明らかである。そこであえてチョウ・ユンファを主役に据えて映画を作るわけだが、これは歌うことも踊ることもできないナタリー・ウッドやオードリー・ヘップバーンを主役に据えてミュージカル映画を作るという課題と同じ性質のものだ。この課題を解くテクノロジーが発達すると、『フラッシュダンス』を経由してMTVになってしまう。このあたりの経緯については、「お勧め映画、第4回、ミュージカル映画篇」も参照。

 ミシェル・ヨーは素晴らしいが、チャン・ツィイーとの一騎討ちでは急に動きが鈍くなり、背中や上からのショットでは代役が使われている。DVDに収録されているインタビューによると、北京市街でのアクションの撮影の際に怪我をしたとのこと。チャン・ツィイーについては、まさにスターの誕生を目撃したような気分だ。この人の空中姿勢の美しさが、この映画の革命的な飛翔シーンに大きく貢献していることは間違いない。

 なお、剣が盗まれる夜のシーンを見ていて、森一生の忍者映画を無性に見たくなった。様式美的なかっこよさという点では絶対にあっちの方が上である。逆に見れば、『グリーン・デスティニー』の良さは、屋根の上や壁面を疾走するときの曲線と、それに見事に同期した脚の動きに代表される滑らかさにある。その点で、チョウ・ユンファの剣術のスタイルは実はぴったりとはまっているのだった。

2001/7/11

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