偶然の恋人

Bounce

Don Roos / Ben Affleck,Gwyneth Paltrow,Natasha Henstridge,Jennifer Grey,Joe Morton / 2000

★★★

昼メロの世界

 監督のドン・ルースは『熟れた果実』(1997)(未見)に続く監督2作目だが、『ルームメイト』(1992)と『ボーイズ・オン・ザ・サイド』(1995)の脚本にクレジットされているのが目をひく。『悪魔のような女』(1996)にもクレジットされているという問題があるが。

 本作はベン・アフレックとグウィネス・パルトローの2人が主演するメロドラマ。雪に閉ざされた空港で足留めを食ったベン・アフレックが、バーで意気投合した男にチケットをあげるのだが、その飛行機が墜落する。広告代理店の共同経営者である彼は、墜落した飛行機の航空会社をクライアントとして獲得したばかりだったということもあって、この事件をきっかけにアルコール中毒になる。話はいきなり2年後に飛び、自分が立ち直るための活動の一環として、AAの条項の1つに「迷惑をかけた人に償いをする」というものがあるのを知り、自分のせいで死んだ男の家族の様子を見に行く。その寡婦がグウィネス・パルトローで、2人の小さい子供を抱えながら不動産エージェントとして生計を立てている。間接的な経済的援助をしようと思い立ち、自分の会社の引っ越し先の斡旋を任せたところ、正体を明かすきっかけがないまま、2人は次第に惹かれあっていく……。いやぁ、泣ける話です。この、完全なる昼メロの世界を、ベン・アフレックとグウィネス・パルトローの2人を使って、腹が立たない映画に仕上げているのは偉業と呼ぶにふさわしい達成であると思う。

 ベン・アフレックは、最近のケヴィン・コスナーやブルース・ウィリスがシリアスな映画で採っている「ゲーリー・クーパー路線」、つまりあまり表情を変えず、もっと重要なのは顔が画面に写る角度を変えないことによって演技派に見せかけるというテクニックを採用しているように思われるが、あまりうまく行っていない。まあそのことはベン・アフレックなんだから仕方がないのだが、もう一方のグウィネス・パルトローがあまりにうますぎるので、そのアンバランスさが映画をおかしくしていた。私はグウィネス・パルトローを良いと思ったことがほとんどないが(『ダイヤルM』『沈黙のジェラシー』『恋におちたシェイクスピア』『Emmaエマ』『リプリー』『スライディング・ドア』)、この映画の最初の30分ほどに関しては完璧に近い。具体的には、ドジャーズの試合を観戦するところまで。特に、飛行機事故が起こってから、2年後(と思われる)にベン・アフレックが彼女を「発見」するまで、彼女の側の事情をまったく描かないという手法が効を奏しており、観客にその空白の2年間を空想させるという脚本上の仕掛けを見事に身体を使って実現している。

 2人が親しくなってから、事態は困難になっていく。グウィネス・パルトローはその後の会話の中で、徐々に空白の2年間とそれ以前の生活がどのようなものだったかをベン・アフレックに、また観客に明かしていく。そしてそのたびに、ベン・アフレックは思い詰めたような、悩みに苦しんでいるような、要するに『シックス・センス』のブルース・ウィリスのような顔をするのである。その顔を、観客だけでなくグウィネス・パルトローも見ているとすれば、「この男にはどこか問題がある」と気づくはずなのだが、そうはならない。そして、これを「映画のお約束」として処理するには、グウィネス・パルトローの側の演技があまりにリアリスティックなのだ。『シックス・センス』の例を続ければ、ブルース・ウィリスの表情を見ているヘイリー・ジョエル・オズメントが、ブルース・ウィリスが憂鬱な気分でいることに気づかない、というような不自然さである。これは、50年代ハリウッドのメソッドで演じている役者と90年代のインディー映画にも出ている役者が同じ映画に収まっているという問題とも言うことができる。

 最終的な効果という文脈で述べれば、おそらく大部分の観客は、グウィネス・パルトローがなぜベン・アフレックに惹かれたのかわからないと感じるだろうと思う。もちろん、「ビジネス・チャンスをくれた」とか「子供と遊んでくれる」などの理屈はつけられているが、映画の文法として、ベン・アフレックの側にはグウィネス・パルトローに匹敵するだけの魅力が与えられていない。彼がそのように魅力的でないのは、もちろんアルコール中毒とそれのきっかけになった危機からの立ち直り、そして彼が隠している秘密のせいなのだけれども、映画中のグウィネス・パルトローはその事情を知らないのだ(アルコール中毒については途中で知るが)。だとすれば、彼は単なる「不自然な振る舞いをする男」である。一方、グウィネス・パルトローの方は、ソープ・オペラを専門とする女優かと思ってしまうほど、けなげな女性を体現していて、彼が彼女に惹かれることには何の不思議もない。

 そういうわけで、立ち上がりは素晴らしかった映画も、後半に入って迷走し、最後の方のお約束の結末もとってつけたようなものになってしまっている。なお原題の"Bounce"は、「立ち直り」のこと。映画の中ではグウィネス・パルトローがこの言葉を使って、「みんなが私に立ち直れと言うけれども、立ち直ってしまうと、死んだ夫のことが遠くなってしまうように思うの」という、昼メロ度の高いロジックを語る。直接のセリフはないけれども、もちろんベン・アフレックも同じようにこの"Bounce"の過程にあった。なんでこんな下らない邦題を付けるのかね。

 ナターシャ・ヘンストリッジが、空港で意気投合したもう1人の人物として出演している。ジョー・モートンがベン・アフレックの共同経営者だが、こういう映画なんで途中で裏切りも死にも発狂もしない。航空会社のカウンターで働く社員を、『若き勇者たち』(1984)がデビュー作だったジェニファー・グレイが演じているが、なんとあれで40歳だ。

2001/10/31

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