ER 緊急救命室 LIVE EAST/WEST

ER

Michael Crichton,John Wells / Anthony Edwards,George Clooney / 1997

★★★

興味深い

 TVシリーズ『ER 緊急救命室』の第4シーズン第1エピソードはライブで放送された。しかも、北アメリカの東部と西部の時間帯に合わせて、3時間の時をおいて2回演じられた。今回見たのは、この2回の放映分(45分)と特典映像を収録した2巻構成の日本向けの企画ビデオである。

 私は現時点で『ER』のシーズンI、V、VIを全部と、シーズンIVの最初の数エピソードを見ている。『ER』の項に書いているように、このシリーズはTV番組としては高品質なのだろうけれども、映画の基準で見るとやはりTV臭さがあってしんどい。ただし(私が見た範囲では)シーズンVIだけが突然変異のようによくできているので、見て損はないと思う。

 この企画もののビデオは、同じエピソードの2つのバージョンの細かいところを見比べて、「うーむ、EASTバージョンでは赤ん坊がよく泣いていたけど、WESTバージョンでは大人しい赤ん坊に替えられているな」とか、「ケンカのシーンのタイミングが違うな」というような楽しみ方をするマニアのためのものである。私は文句をいいながらも合計で100時間分近くもこのシリーズを見ているので、楽しむことができた。特典映像からは、ドラマのライブ放送がいかにチャレンジングなことだったかがよく伝わってくる。

 なお、このアイデアの発案者は、出演者のアンソニー・エドワーズとジョージ・クルーニーだったという。ジョージ・クルーニーは後にCBSで『FAIL SAFE 未知への飛行』のライブ放送をプロデュースして成功させている。『FAIL SAFE 未知への飛行』は1964年のシドニー・ルメット監督作品『未知への飛行』のリメイクで、オリジナルと比べると問題含みなのだが、TVでのドラマのライブ放送という文脈では一見の価値がある。リメイク版を見る前に、必ずオリジナル版を見ることをお勧めする。

 『ER』のライブ放送では、いつもドラマの舞台となっているemergency roomにドキュメンタリー番組を撮るためのカメラが入り込んだという巧妙な設定の脚本が使われている。要するにモキュメンタリーなのだが、TVシリーズをずっと見てきている人にとっては、このモキュメンタリーによって通常のTVドラマにリアリティの感覚が生じるという相乗効果がある。登場人物たちはぜんぜんカメラ慣れしていない人たちなので、カメラが入り込んできたことに戸惑いを感じる、という演技をする。しかしときおり、その戸惑いから生じた心理的防御が破れる瞬間があって、そこで彼らの「カメラを意識しない」真の姿が写しだされるわけなのだけれども、それは実はTVシリーズの視聴者がいつものエピソードで見ている役柄なのである。恐ろしく巧妙な仕掛けだ。ただし、その仕掛けを感知するためには、このTVシリーズをあるていど見て、登場人物たちのキャラクターを知っておく必要がある。何も知らずにこのライブ放送だけを見ても、あまり面白くないだろう。

 実験的試みを、十分に鑑賞に耐えうる商業的価値のある作品として結実させた、アメリカのTVドラマの底力を感じさせる作品である。

2002/2/21

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