ハンニバル

Hannibal

Ridley Scott / Anthony Hopkins,Julianne Moore,Gary Oldman,Ray Liotta,Giancarlo Giannini,Francesca Neri / 2001

★★★★

壊滅的ではない

 リドリー・スコット監督作品。『刑事グラハム/凍りついた欲望』(1986)、『羊たちの沈黙』(1990)に続く、トマス・ハリスのレクターものの映画化ということになる。私は原作の『ハンニバル』を読んでかなりがっかりしたし、最近のリドリー・スコットにはかなりの不安を抱いていたのだが、本作は予想を裏切ってそこそこいい映画になっていた。脚本にはデヴィッド・マメット(『スパニッシュ・プリズナー』)とスティーヴン・ザイリアン(『シビル・アクション』)という豪華な組み合わせがクレジットされている。

 原作の項では、レクター博士がブランド好きのジェームズ・ボンドになってしまったと書いた。この映画では、ブランド好きの要素はかなり抑えられたものの、ジェームズ・ボンド的なところは変わっておらず、キャラクター造型の深みの点では最近のピアース・ブロスナンに負けそうだ。実はアンソニー・ホプキンス本人に、このところステレオタイプの軽い感じの演技が多い。ジョディ・フォスターがストーリーのせいで役を拒否したとされるクラリス・スターリング役はジュリアン・ムーアが演じているが、原作にあったレクターとスターリングの間の相思相愛というテーマがエンディングの改変と合わせてほぼ完全に削除されてしまっているので、見せ場がまったくなく気の毒ではある。

 イタリアを舞台にした前半部に登場するジャンカルノ・ジャンニーニが素晴らしすぎる。イタリアで英語を喋っているのはしかたないと諦めるとして、本作のこの部分はイタリアを舞台にした刑事物として1本の映画が作れそうなほど豊かに見える。この人はこのところ『星降る夜のリストランテ』『ミミック』などで「円熟」としか言いようのない活躍をしている。その他、識別不可能なほど化けるのが好きなゲイリー・オールドマンと、クライマックスのためだけに出てきたレイ・リオッタが、それぞれ映画の成り立ち上の制約はあるものの、とてもいい感じだ。脇役ばかりが頑張っている映画ってのもどうかとは思うけれども、興味をつないだことは間違いない。

 なお、ジャンカルノ・ジャンニーニの若い妻を演じていたのはフランチェスカ・ネリ。ダリオ・アルジェントの映画で殺されそうな女優さんで、この映画でもできればレクター博士に食べられてもらいたかったのだが、ボンド化してしまったレクターには無理なお願いというものか。

 そういうわけで、原作をダウングレードしたという感じの『羊たちの沈黙』と比べると、本作『ハンニバル』は原作よりも豊かな要素を備えているように思う。これは嬉しい驚きだった。『刑事グラハム/凍りついた欲望』のマイケル・マンの熱っぽさが一番好きなことはいまでも変わりないが。

 なお、アンソニー・ホプキンスについて一言。私がこの人を強く意識したのは、ハウプトマンを演じた『リンドバーグ2世誘拐事件』(1976)(読書メモの『リンドバーグの世紀の犯罪』も参照)と、リチャード・アッテンボローの『マジック』(1978)だった。特に『マジック』は、アン=マーグレットの「復帰作」ということもあって強く印象に残っている。あの頃と比べると手を抜いてるんじゃないの、と言いたくなるわけだ。

2002/4/7

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