RAF/RED ARMY FACTION

Phantom, Das

Dennis Gansel / Jurgen Vogel,Nadeshda Brennicke,Mathias Herrman / 2000

★★★★★

重厚なスリラー

 ドイツのTVムービー。監督・脚本のデニス・ガンゼル(製作時26歳)は、この後『GIRLS★GIRLS』 "Maedchen Maedchen"(2001)という映画を作ってヒットさせたようだ。

 『暗殺の瞬間』に似たところの多い、現実の出来事を背景にした巻き込まれ型サスペンス。本作の背景となっているのは、ドイツ赤軍派RAFの「第三世代」"Die Dritte Generation"を巡る謎である。詳しくは、本作のベースとなった1992年の本"Das RAF-Phantom"の著者のページを参照。

 少々微妙な性質を持つ政治的な主張を、巻き込まれ型サスペンスにうまく盛り込んでいる秀作。ドイツのTVムービーなので、★1つ分だけ格上げしている。フラッシュバックの使い方が少々気になるのだが、全体としての完成度は高い。

 主演の刑事を演じるユルゲン・フォーゲルは、幅広い活動をしているようで、なぜか「セサミ・ストリート」にも出ている。終盤に大写しになる歯並びの悪さが素晴らしかった。ヒロインにナデシュダ・ブレンニッケ。主人公を追う警部にマティアス・ヘルマン。

 以下、ストーリーにかかわるネタバレ。本作を見た方のみご覧ください。

 上で述べた「謎」とは、1980年代以降に行われた「第三世代」のRAFによる要人暗殺の背後には、政府の陰謀があるという謀略説である。本作では、1990年に行われた架空の要人暗殺の真相が10年後に露見するというストーリーになっているが、これと似た暗殺事件は1980年代以降に数回起こっており、そのいずれについても少々納得のいかない経緯があったため、謀略説の余地が生まれた。これは決して広く受け入れられている見解ではなく、conspiratologyの文脈で語られるべきものなので注意されたい。

 RAFのいわゆる「第二世代」は、1982年のクリスティアン・クラー(Christian Klar)の逮捕をきっかけに完全に沈静化した。日本よりも少し遅れて左翼テロリズムの人気が下火になったということ、左翼運動全般が環境問題へと焦点を移してメインストリームへの移行に成功したなどの要因がある(「緑の党」が西ドイツ連邦議会で27の議席を獲得したのは1983年のこと)。第二世代の運動家として知られていた人々は、投獄されるか、普通の市民生活に戻るかして、テロリズムにかかわる活動を停止した。

 ところが、1985年あたりから、MTU、Siemens、Deutsche Bankといった大手企業の重役を爆弾などの手段で殺害するという、かなり人目をひくテロリスト活動が始まる。そして、これらの事件にはかなり怪しい特徴があった。犯人たちは、そうとう厳重な警護をかいくぐって首尾よく目的を達している。そして手がかりを追っていくと、「RAF」の関与を示唆する文書や、大量の武器弾薬が見つかるのだが、実行犯は1人も捕まっていない。つまり、この第三世代のRAFは、犯人たちが「RAF」という固有名詞を手がかりとして残しているだけで、それ以前のRAFとはまったく関係のない組織である可能性があるのである。

 ところがメディアはこれをRAFの仕業として報道し、メインストリームへの足がかりを得た左寄りの政党もテロリズムにかんして厳しい態度をとる。つまり、これら一連のRAFの活動をきっかけに、全国的に反テロリズムの機運が高まり、国民の支持を受けて当局の締め付けが厳しくなった。このことから、RAFの「第三世代」の背後には、西ドイツの警察当局がいるのではないかという陰謀説が誕生したわけである。もう1つの仮説は、一連のテロリズムがDeutsche Bankの世界戦略に与えた影響をもとにしている。このテロリズムにより、Deutsche Bankはグローバルな市場への進出を一時的に諦めなくてはいけなくなり、その結果としてアメリカの競争相手に遅れをとった。このことから、「第三世代」の背後には、アメリカの企業のインタレストを背景にしたアメリカの国家機関(まあCIAですか)がいるのではないかという臆測が生まれる。ヨーロッパ版「金融敗戦」史観であるが、エシュロンを巡るヨーロッパ大陸国とアメリカの間の緊張関係と同じ文脈で考えることができる。

2002/6/2

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