悪魔の呼ぶ海へ

Weight of the Water,The

Kathryn Bigelow / Catherine McCormack,Sarah Polley,Sean Penn,Josh Lucas,Elizabeth Hurley,Katrin Cartlidge,Vinessa Shaw / 2000

★★★★★

美しい佳作

 キャスリン・ビグロー監督作品。『ストレンジ・デイズ』(1995)以来ということになる。アニタ・シュレーヴの小説(未読)の映画化。19世紀末にアメリカ東海岸の島で起こった殺人事件と、その取材にやってきた現代の写真家の話を交互に描く。原作は読んでいないが、フェミニスト的な視点からの「女性もの」であると思われる。

 本作は映画祭では上映されたものの、評判が悪く、本国でも広くは劇場公開されなかったようだ。日本でもビデオ/DVDでのリリースとなった。しかし、この映画はかなり質が高い。ニューイングランド入植者ものとしては『クルーシブル』よりも良く、「女性エピックもの」としてはたとえば『ピアノ・レッスン』(1993)よりも良いと断言する。本作はおそらくキャスリン・ビグローにとっては失敗したチャレンジということになるのだろうけれども、私はこの人がますます好きになった(特に前作の『ストレンジ・デイズ』があまり良くなかっただけに)。

 現代篇では、写真家のキャサリン・マコーマックとその夫の詩人ショーン・ペン、そしてショーン・ペンの弟のジョッシュ・ルーカス(以前はジョシュア・ルーカスという名前を使っていたようだ)とそのガールフレンドであるエリザベス・ハーレイが登場し、この4人の間の関係が徐々に明らかになっていく。一方過去篇では、ノルウェイから移民してきた満たされない若妻のサラ・ポーリーを中心に、姉のカトリン・カートリッジ、兄の妻(要するに義理の姉)のヴィネッサ・ショーの3人の女性の間の関係が描かれる。

 この2つの物語は並行して進展するが、必ずしも論理的に強く結びつけられているというわけではなく、物語の進行のスピードにも一貫性はない。また、何らかの明確なオチがあるというわけでもない。この点が多くの観客に散漫だという印象を与えたのかもしれないと思う。しかし私は、たとえば『メメント』とか、唐突に引き合いに出させてもらうけれども『ユージュアル・サスペクツ』のような、失敗した謎解き映画よりも、こういうタイプの映画の方がはるかに好ましく感じられる。物語が内発的に進行しているという感覚があるのだ。本作では、謎として設定されている殺人事件の真相は、映画そのもののテーマからして最初から分かり切っているわけだけれども、その不可避的なエンディングにどのような過程を経て到達するのかという点で十分なサスペンスがあった。この点については、読書メモの『夜の記憶』の項も参照されたい。

 本作の一番の収穫は、サラ・ポーリーである(『スウィート・ヒアアフター』『イグジステンズ』)。19世紀末の移民世帯の抑圧された女性というステレオタイプを、ひるむことなく、卑屈になることなく演じきっている。キャスリン・ビグローのこのバランスの取り方は『ブルースチール』(1990)と同じ根を持っているのかもしれない。映画自体が成功していたならば、アカデミー賞ものだっただろう。

 現代編の方の主人公であるキャサリン・マコーマックも微妙な役をうまく演じており、エリザベス・ハーレイも軽薄な美人という役柄をちゃんとこなしている(上半身ヌードあり)。ちなみに、公開時にキャサリン・マコーマックは1972年生まれの28歳、エリザベス・ハーレイは1965年生まれの35歳。うーむ。過去篇でサラ・ポーリーを取り巻くカトリン・カートリッジとヴィネッサ・ショーも素晴らしい。

 男優の話が出てこないのは、これがやはり「女性映画」だからである。本作において、男性は、女性同士の心理的関係の変化をもたらすものとしてしか使われていない。これは、そこそこ長いセリフや心理描写があるショーン・ペンにしても同じ。

2002/8/23

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