明日は来らず

Make Way for Tomorrow

Leo McCarey / Victor Moor,Beulah Bondi,Thomas Mitchell / 1937

★★★★★

恐ろしい盛り上がり

 1937年のレオ・マッケリー監督作品。この「映画メモ」では古い映画は扱わないつもりだったんだが、これを見てしまっては仕方がない。1937年はレオ・マッケリーにとってはキャリアの終盤に属する時期で(ただしわれわれが簡単に見られるのはだいたいこれ以降の映画なんだが)、この映画は同年公開された『新婚道中記』(The Awful Truth)(アイリーン・ダンとケーリー・グラントの楽しいコメディ)がアカデミー監督賞を獲ってしまったせいで、あまり注目されなかったという経緯があるらしい。私は初見だった。

 ヴィクター・ムーア(この時期はすでに名優扱い)とボーラ・ボンディ(なんとこのとき49歳)の老夫婦が家を抵当にとられ、子供たちの家に分かれて住まざるをえなくなる。長男をトーマス・ミッチェル(このとき45歳。ただしキャリアの初期)が演じている。1937年のアメリカは長く続く不況に国民があえいでいた時期で、子供たちはいずれも経済状態がよくなく、老夫婦は「一緒に生きる」ことすらできない。カルフォルニアに住んでいる娘(画面には一回も出てこない。うーん、ハードボイルド)のところにヴィクター・ムーアが向かうことになったその日、夫婦が新婚旅行のときに訪れたニューヨークで一日のデートを楽しむ、というのがクライマックスである。

 このクライマックスの盛り上げかたが神業で、かなり長い時間をかけて、老夫婦がそれまでの人生を振り返り、懐かしみ、もう二度と会えなくなるかもしれないという不安と諦めが徐々に確立されていき、残された時間を精一杯楽しむというまあそういう心情を見事に描き出している。そして最後にやってくるエンディングがこれまた奇蹟としか言いようがないもので、作られてから60年強、これまでに数万人のオーダーで本物の涙を流させてきたんではなかろうか。

 ちなみに、このモチーフは後期の小津的で、まあ一般に日本的と思われている小津の映画は、このあたりのハリウッド人情喜劇のリメイクなのである。特にこの映画は彼に「直接の」影響を与えたんではないかと思えるほど、親子というテーマの扱い方が似ているだけでなく、キャラクターの配置と、それぞれに割り当てられる役者の資質が似ている。いないのは(若い頃の)原節子だけといっても過言ではないかもしれない。これは冗談ではなく、山村聡(長男)、三宅邦子(その妻)、中村伸郎(老父のグチに付き合う友人)、杉村春子(性悪の娘)などとそっくりなのが本当に出てくるのだ。やんちゃな孫が過激な行動をしてハラハラさせるのまで同じ。

 ちなみに、これは野暮なことだが、このあとアメリカは太平洋戦争に突入し、黄金の50年代を迎える。こんな上品な「貧乏」が描かれたのは、この時期が最後なんではないだろうか。

1999/11/14

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